03.不意打ちですよ
 このままずっと変わらないと思っていた。
自分自身も二人の関係も。
だけど、変わらないものなどどこにもないのだとわかってしまった。

「どうしたの?」

無邪気に身を乗り出してくるコイツはただの幼馴染で、それ以上でも以下でもない存在だった。
まだ男だ女だと区別をつけられないぐらいガキの頃からずっと一緒で、だからこそコイツも俺もずっとこのままだと思っていた。

「別に」

急に無口になったり機嫌を悪くしたりする俺の態度はどうかんがえても挙動不審だ。だけど、そんな怪しい行動すら、コイツはなんなくひょいっと受け止めてしまう。嬉しいのに、それすら息苦しく感じてしまう。
それもこれもコイツのあんな顔を見てしまったからだ。八つ当たりを承知で不意打ちを食らわせた神様に暴言を吐きそうになる。
俺の不機嫌など気にもとめないのか、はしゃぎながらアイスを食べるコイツが、あの時のあいつと同一人物だなんていまだに信じられない。
だけど、どれだけ俺が否定しようとも、あの時のコイツが胸に巣くって、ちっとも出ていってくれはしない。

「返事、きたのか?」

「……」

無理してはしゃいでいるのがバレバレなコイツに唐突に話し掛ける。
たぶん、今一番聞いてほしくない事、だと思うし、俺自身も一番聞きたくないこと、になる可能性のある問題だ。

「…知ってたの?」
「まあ、な」

知りたくはなかった、けど。
クラスメートに励まされて、ケイタイで告白なんぞしているこいつの姿なんて見たくはなかった。だけど、あの時あの場所に通りかからなければ良かった、なんてどれほど後悔したところで、自分自身の目に飛び込んできた光景は消えてはくれない。
コイツが、あんなに恥ずかしそうに、でも見たこともないぐらいかわいい顔をして、俺の知らない誰かさんのことを話すだなんて。
不意打ちに飛び込んできた自分の知らない彼女に、自分の中にある何か別の感情に気がついてしまったことも、知りたくはなかったんだ。
それ以来、コイツの顔を見ては落ち込み、見なくては落ち込んだ。
ただ、同じ方向に家があるだけの幼馴染というポジションは、思いのほかコイツと接触するには条件不足だということも思い知らされた。
だから、たまたま帰るタイミングが同じという運のいい日は、何が何でもコイツと一緒に帰るべく全ての力を傾けてもいる。コイツはそんなことは知ったことではないだろうけど。

「ダメ…だった」

いつの頃からか身長差が出来て、今ではコイツのツムジしか見えないけれど、それでもそう呟いた彼女が落ち込んでいることはわかる。
沈黙のままコイツに歩幅をあわせながら歩く。
夕方の空は、まだまだ明るくて。でも、彼女の気持ちを照らしてはくれない。
だけど、そんな傷付いた彼女を見て、俺自身も何がしかの憤りは感じてはいるものの、心のどこかで喜んでいる自分がいることも事実で、その矛盾した気持ちがますます自分の気持ちを混乱させていく。
不意に見上げた彼女はとてもきれいに笑っていた。
うっすらと目に涙らしきものが見られるけれども。
心臓がドクンと跳ねる。
誤魔化すように、彼女に笑ってほしくてバカな話をふる。つられて笑う彼女をもっと見たくなる。
二人が家にたどり着くまでのほんの僅かな時間が、ずっと続いてほしくて、でも、やっぱり終わりはくるもので、彼女が軽く手を振る姿に再び心臓が暴れだす。
鈍い俺は、ここにきてようやく彼女が好きなのだと、認めることができた。

4.20.2007update/7.11再録
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