「やっぱり冬になったらスキーだよな」
なんて言葉を残して、私の愛しの彼氏様はスキー場へと往復するだけの人間になってしまった。これが夏ならボディーボード、春は草野球、秋はフットサルと見事にシーズンごとに私を置いてスポーツを楽しんでいる。
もちろん最初は彼についていって私も楽しもうとしたけれど、そのたびにすでに出来上がった輪の中に入っていくことの面倒くささや、なぜだか知らないが古株の女性達の冷たい視線で長続きする事はなかった。
私の方が彼のことを良く知っているのよ。そういった含みのある視線は、いくら気にしないように勤めてはみてもやはり不愉快である。彼と彼女達の間に何かがあった、だなんて疑ってはいないけれど、それでも私の知らない彼を、それも休日すら満足に過ごさない彼のことを彼女達の方が知っているのは当然のことで、微妙にコンプレックスを刺激された私は、敵前逃亡のように彼女たちの前から姿を消す方を選んでしまった。
私が参加している時にも、自分と同じ立場の女性はいたのだが、彼女達は程なくして恋人と一緒にその集まりに参加しなくなるか、恋人と破局していったらしい。
そのどちらも選べない私はずるずると今の状態に甘んじたまま現在に至る。
全ての土日をそれらに注いでいる彼と、私がいつ会うかと言えば、雨が降って試合になった春と秋、雪のないスキーシーズン、暴風雨でとてもじゃないけど近寄れない夏の日だったりする。つまり私は常にセカンドなのだ、彼にとっては。
今日は車を出すはずの友達が駄目になったという理由で、セカンドの私のところへ来るはずが、直前のところで彼とは古くから付き合いがある、という女性に掻っ攫われてしまった。もちろん多人数でスキー場へ、だけど。
久しぶりに会う彼氏に期待してはいたけれど、予想以上に落胆している自分と、やっぱりと諦めきっている自分が同居してしまっている。寂しい気持ちでいっぱいになっていた今までの自分とは、何かが変わってしまったのかもしれない。肩透かしの行動もたびたび続けば麻痺してしまうのだろうか。
実のところ、今日来てもらっても風邪気味で床に伏せっている私は、満足に相手をすることができない。彼に看病してもらうことは期待していない。なにせ、寝込んでいる私に対して「俺のごはんは?」というとこから始まって、「大丈夫、ごはんは用意したから」と、自分の分の食事だけを用意するように、ゾウガメの方が早く進むのでは?といった進歩しかしなかった彼だから。
だからこそ余計にただ側にいて欲しかったのに、そんなささやかな希望も口に出して言えないほど、私たちの関係はよそよそしい物になってしまっている。
きっとあいつは気がついていないだろうけれど。
誰もいない部屋は主が寝ていれば静かな物で、その静かな空間が私に色々な出来事を思い起こさせてくれる。去年も今ごろは何していた?一昨年の今ごろは?いや、それどころか一ヶ月前に私たちは満足に会話を交わしただろうか。
熱のある頭でつらつら考え事をしていたらアイツのどこがいいのかわからなくなってきた。
別れようかな、とは何度も思った事だけど、結局つきあっていようが別れていようがあまり状況が変わらないという馬鹿馬鹿しさに、改めて切り出すことも躊躇われただけだ。古臭い話だけど、海の男が年に数回帰ってくる港のような女になれれば、なんて粋がって包容力のある女を気取っていただけかもしれない。
なんだかもう、緊張の糸が切れてしまったらしい。
ゆるゆるとした動作でベッドの上で半身を起こす。枕もとに放り投げてある鳴らない携帯電話を無造作に拾い上げる。
ボタンを素早く操作する。やっぱり何も着信記録などない。ふぅ、と大きく溜息をつく。
もうどうでもいいや、と、携帯のメモリーを全部クリアーにする。
ついでに友達の番号も消えちゃうけどそれはまた聞けばいい。
どうせ彼に会うことは当分ないのだろうから。
ひょっとすると大学のキャンパスですれ違うかもしれないけれど、どうせお昼を一緒に!といった間柄ではないのだからこのさいどうでもいい。
このままいけば、この冬のシーズンは彼に会うことはないだろう。
次のシーズンになれば、彼はまた別の何かに夢中になるのだから。
だから携帯メモリーもきっとこのまま。
もうやめてしまおう。
ついでに電源を切っておく。
オフになり真っ暗になった電源を見つめていたら、全ての未練まで消えてなくなっていったような気がする。
うん、もう終わりだ。
そのまま私は熱にうなされながら浅い眠りへと落ちていった。