仲直りの仕方



「あの言い方はないと思うんだよね」
「そう思う?そうだよね、ああいうところが冷たいっていうか・・・」





「なに一人で不気味に会話してんだよ」

背後から聞こえてきた声にビクリと体が震える。
今日はもう来ないと思っていたのに。

「おまえがそうやってサボテンをいじめるから、育たねーんだよ」

一人用の小さなコタツ机と上に置かれたサボテン。
それらを目の前にして正座しながら独り言を呟いていた私。
かなり見られると恥ずかしいシチュエーションだ。
だけど、彼が起因する怒りを持続させている私にとっては、そんなみっともない自分の姿も逆切れをするいいきっかけみたいなものだ。

「なんでここにいるわけ?」
「いちゃ悪いのかよ」
「別に!」
「つーか、いいかげんにしてくれないか」
「だったら帰ればいいでしょう?」

たぶん、玄関にいる彼の方を見ずに、ただひたすらサボテンを見つめながら応酬する。
こうやって不機嫌そうにしていれば、彼はそのまま帰ってくれるだろう。明日になればもう少し冷静に話もできると思うから。
だけど、私の性格を全てお見通しな彼に、そんな思いが届くはずもなく、やや乱暴な足音で部屋の中へと入り込んできた。

「なによ」
「別に」

今度は彼の方がぶっきらぼうに答える。
彼にとっては理不尽な八つ当たりなのだろうから、こういう態度を取りつづける私に腹を立てるのも無理は無い。無理は無いけれども、余計に腹は立つ。

「ほらよ」

どさっとサボテンの隣に置かれたのはレジ袋。
喧嘩中にもかかわらず、私は一瞬大好物のプリンが入っているのかと思い、ついうっかり浮ついた気分となる。
だけど、そんなに甘い話があるはずもなく、中身は色気も何もないしょうが焼き弁当二つ。しかも一つは大盛り。

「これ・・・なに?」
「メシ」

あたりまえだろ?と暗に声が語っている。
彼は慣れた手つきで我が家の冷蔵庫を開け、中から冷えているお茶を取り出す。
一人暮らしなのになぜかちゃっかり置いてある彼専用のカップと、私用のカップにお茶を注いでいく。呆然としたままの私を残し、彼はちゃっちゃと用意を進めていく。

「ほら」

私の前にしょうが焼き弁当が置かれる。もちろん彼の前には大盛りが。
綺麗に割り箸を割り、さっさと弁当を胃の中へと詰め込んでいく。

「なにしに来たわけ?」
「何って仲直り」

あっさり口にした内容と、彼の行動のかみ合わなさに戸惑いっぱなしだ。しかも、こちらの思惑を気にすることなく、ものすごい勢いで弁当が消費されていく。
おまけに、相変わらず細いわりにはこの人は良く食べる、と、ばかな感想を抱いてしまう始末だ。

「食べないの?」

じっと彼が見つめる先には、手付かずの弁当が置かれている。
先ほどまでは、怒りに麻痺していたけれど、そう言われればおなかが空いているということに気がついた。
食べ物の匂いと、目の前においしそうに食べている人間、というのは、怒りを忘れさせてくれるのかもしれない。

「食べるわよ」

あっさりと誘惑に負けた私を彼は鼻先で軽く笑う、その笑い方にカチンとくるものはあるのだけれど、それでもやっぱり目の前の食べ物には勝てず、いそいそと箸を手にとってしまう。
とっくに食べ終えた彼は、お茶を飲みながら寛いでいる。根っこが生えたように、どっかりと胡座をかいている。
ゆっくりと、でも着実に食べ終えた頃には、喧嘩の原因さえ忘れ去っていた。

「明日休みだけど、どこ行く?」
「温泉」

そんなやりとりがかわされ、寛ぎまくった彼はそのまま我が家へ泊っていくこととなる。
なんとなく釈然とするようなしないような。
結局いつものパターンにはまってしまった我が身を振り返る。
彼の方が一枚も二枚も上手と言うことなのだろうか。
ちょっとだけ悔しくてちょっとだけ嬉しい。

そんな複雑な気分を抱きながら、それでも寝入る頃には綺麗さっぱり嫌なことは忘れ去っていた。

やっぱり、私には彼が合っているのだと思いながら。
彼にとって私がそうなのだと嬉しいと思いながら。


5.30.2006


>>Text>>Home
感想、誤字脱字の発見などはこちらへ→mail