LoveLetter



 懐かしさに眩暈がする。



 わけあって、押入れの整理をしていたら、中身のわからないダンボールを発見してしまった。
ガラクタでいっぱいの押入れに、なんとか空きスペースを見つけたい俺としては、早速中身を確認する。
出てきたのは、なぜか大学時代のノート、英語だの専門科目だのを板書したルーズリーフの束、あまり使われていない風の教科書。
そうして、差出人のない手紙。
瞬間、それを貰った時間にタイムスリップする。





図書館で勉強をしていた時にトイレから帰ってきたら、ノートの上に無造作に手紙が置かれていた。
きっちり糊付けされた封筒は、表を見ても裏を見ても、差出人の記名がない。
不審に思いながらも、あっさりと封を開ける。
目に飛び込んできたのは、綺麗に畳まれた真っ白な便箋。
あまり触れたことのないような質感の紙を、おそるおそる丁寧に開く。
一行目には俺の名前。
ようやく、俺自身に当てられたものだと確信する。
綺麗に綴られた文字を注意深く追っていく。
しばらくの後、静まり返った図書館で、白い便箋を目にしながら、見る見る茹蛸になっていく男が一人出来上がってしまった。
つまるところそれはラブレターだったのだ。
日頃から俺のことを見守っていることを匂わせるそれは、顔も知らない誰かさんに好意を抱かせるような内容で、耳まで熱くなってきてしまう。
何度も何度も手紙を読み返し、ため息をつく。
こんなだいそれたものを、自分の人生の中でただの一度でももらえるだなんて思ってもいなかったせいか、それこそ穴の開くほどその手紙を眺めてしまう。
だけど、残念なことに、中身の方にも差出人の名前が記されていなかった。
便箋をひっくり返しても、透かしてみてみても、名前は出てこない。
しつこく封筒を丹念に探ってみるものの、やっぱり名前らしき物はどこにも書き留められていなかった。
がっかりしたような、手紙を読んでいる最中にどんな女性なのかを夢想しながらだったせいか、現実を知ることがなくなって安心したのか、よくわからないため息をつく。
その封筒は、その後も大事に仕舞われて、もてない俺でも、どこかで自分のことを思ってくれる人がいるという、自信めいたものさえ与えてくれた。





「これ、おまえだろ、やっぱり」

再び熱心に手紙を読み直した俺に近づいてきた影に話し掛ける。

「ち、ちがうわよ!」

動揺した影は、どすんと持っていた荷物を地面におとしたようだ。うろたえた声の後、痛いと叫ぶ声が聞こえたから。

「急に変な事言わないでよね。私がそんなの書くわけないでしょ!」
「そんなのって、おまえ内容知ってるわけ?」

わざとらしく突っ込みを入れる。本来隠し事の出来ない彼女は、あからさまに狼狽している。したたまに荷物をうちつけた足の痛みも忘れて、別の部屋へと逃げ込んでいった。
本当は、とっくにわかっている。
この手紙の差出人が彼女だと言う事を。
これだけ長いこと付き合って、おまけにもうすぐ結婚までするというのに、彼女の字の特徴やら文章の癖がわからないわけがない。
そこのところは、彼女も理解しているはずなのに、頑なに認めようとはしない。
だから、こうやっていつまでも俺が彼女をからかえるのだけど、と、もう一度丁寧に封筒を畳みなおしながら思う。
これから先、まだまだ楽しめそうだとも思う。
彼女と一緒だとずっとずっと楽しそうだとも。
きっと彼女もおばあちゃんになったら言ってくれるだろう、君と一緒におじいちゃんになる俺に。

「あれは、私が書いたのよ」

そう、照れながら。
封筒はもうしばらく押入れの中に眠ることとなる。
彼女が白状する、その日まで。


5.23.2006


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