「クリスマスといえば恋人同士のイベントだよね」 「子どもにとっては家族のイベントでしょ、何馬鹿なこと言ってんの?」 目を輝かせながら何やらあやしい企みをしている兄さんの言葉をぶった切ってみる。いや、冗談でもなんでもなく、私にとっては普通に学校に行って夜に家族とチキンやケーキを食べる綺麗に飾られた日、程度の認識しかないし。 「どうしてこんなに若くて枯れちゃうかなぁ」 「や、それは確かに今年はカレンダーの配置がいいけどさ、普段は学校あるじゃん、イブの日って」 「そう、そう、それだよ、美夏。そのせいで今までどれだけ苦々しい思いをしたことか!」 握りこぶしを上下させ興奮気味に語るこの人は、いったい何について語っているんでしょうか。やっぱりこれは逃げた方がいい? そろそろと兄さんの方を向きながら後ろ足で去ろうとする私を、あわてて兄さんが確保する。 「待って、美夏ちゃん。何もしないから」 まるで信用できない目をした兄さんと距離を開ける。 「でね、やっぱりこれはデートとかしなくちゃ、ね」 なにが“ね”だ。かわいこぶったって、騙されない。 「高校生連れてどこいこうっていうの?夜はだめだよ、家でご飯食べるし」 「あ、大丈夫。それには俺も誘われてるし」 そう言われればこの人は、毎年毎年アタリマエのような顔をして家族の中に紛れていた。 「やっぱり定番の映画ははずせないんじゃない?」 「はずせないって言われても」 「ロマンティックな気分になってーなんて」 「妖怪大戦争とか」 「もう公開終わって、今度DVD出るし、って、そういうのじゃなくて」 「ハリーポッター」 「そういうのでもなくて」 「まんが祭り?」 「本気で見る気?」 「冗談」 はぁ、と大袈裟に溜息をつく。 「恋人同士なんだからさ、やっぱイベントはちゃんとしたいと」 「誰と誰が恋人同士なわけ」 さも当然のように私と自分を指差してニコニコしている。 「いいかげん、子ども相手にするのやめたら?」 「美夏は十分育ってると思うけど」 私から発散される不穏な空気を悟ったのか、慌ててむにゃむにゃをガードする。 いくら私でも、言葉だけでそこまで無体なことはしませんって。 「まあ、遊び行くのはイヤじゃないけどさ、もっとこう、パワーのあるやつがいいな」 「パワー?」 「バッティングセンターとか」 「やだ」 「川釣り」 「一度連れて行ってもらって懲りたからいやだ」 「うーん、スポーツクラブでヨガ」 「何が悲しくてそんな意味で汗かかなくちゃいけないの、クリスマスイブに!!」 意見の相違がまとまらず、二人して固まっていると買い物から帰ってきたらしい母さんがやってきた。 「あら、二人ともどうしたの?深刻そうな顔をして」 その言葉と先程までのあまりにくだらないやりとりのギャップに苦笑する。 兄さんが言いつけるようにしながら、――――――せっかくのクリスマスに、と言いかけた途端、母さんの声が重なる。 「そうそう、その日は母さんと買い物に行くって約束したわよね、美夏ちゃん」 「そうだっけ?」 「そうよーー、冬物が欲しいって言ってたじゃない」 「え!!買ってくれるの?????」 「もちろん、お父さんのボーナスもなんとか出そうだし、例のコートも大丈夫そうよ」 「やったね!!!!!」 ガッツポーズを決める私と、床に落ちそうなほど顎が開いたままの兄さん。 今年一年を締めくくり、なおかつ来年を予想できる構図にちょっとだけ、本当にちょっとだけ兄さんに同情してみた。 今からプレゼントなんてものを用意しているのだけれど、それを知ったらこの人はどうするんだろう? 楽しい想像に思わず顔が綻ぶ。 怪訝そうな兄さんと、何も考えてない母さんと、とりあえずお茶でもするか、と台所へ退散する私。 今年は一勝一敗ってところかしら?
12.13.2005
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