17.ファーストキス |
鼻歌などを歌いながらパスタを作る。昨日の提案通り今日は私の下宿先で夕食を取ることにした。
食べたら研究室に戻らないといけないんだけどね。私のところは大学から近いし、あんな視線の中で食事するよりよっぽどまし! 「はい、できたよー、おまちどうさま」 鶏肉と梅のパスタ。すっごく簡単で結構おいしい、お気に入りの料理だ。 「いただきます」 テーブルの上に二人分の食事を並べて食べ始める。今日はスープもついてるからちゃんとしたメニューに見える。 「あれ?食べないの?」 昨日から機嫌が悪そうな今井君が座ったまま動かない。なんだろうひょっとして鶏肉が嫌いだとか。 「・・・違うって。いただきます」 そう言うとやっと食べ始めた。 学食のときとは違う沈黙の食事。普段はうるさいぐらい良く喋るのに、なんだか無口だ。 なーんか調子狂うなぁ。そう思いながらもパスタを絡めとって食べる。 うん、おいしいじゃないの。 自画自賛しつつ食事を終える。今井君は最後まで黙ったままだ。 気を取り直して冷たいお茶のおかわりをだすと、水滴がついたグラスを持ったままじっと一点を見つめている。 「もしかしてまずかったとか」 そんなはずはないと思うけど、念のため聞いてみる。好みがわからないんじゃこれから作りようがないしね。 返事を促した私に突然今井君の腕が伸びてくる。あれ?って思っている間に我が家の天井が見える。 これってとってもまずい体勢なのでは・・・。 完全に背中が床についてる。今井君は私の首を挟んで両腕を床につく。俗に言う押し倒されるって格好かもしれない。 やばい体勢なのにそんなのんきなことを考えていたら、切羽詰ったような声で訴えかけてきた。 「俺のこと男と思ってないやろ?」 「は?どっからどうみても男じゃないの」 「違うそんな意味じゃない」 そう言うと今井君の顔がどんどん近づいてきた。 ファーストキス。 人生初めてのキスがこんなシチュエーションだなんて、あんまりじゃない? |