11.夏セミナー(2) |
出鼻をくじかれたような若手セミナー。なんかね失恋への決定打を探してるってかんじがしてきた。 現在宴会の真っ最中。飲めないビールをちびちび舐めながら過ごしている。 私の隣には当然のように今井君。元気がない私に理由なんか聞かないでいつも通り振舞ってくれる。 そういうところはこいつのいいところなんだよねぇ。いつだってそう、余計なことを聞くことなく自然にそばにいてくれる。 それがとってもありがたい。 「ねえねえ、後で俺達の部屋にこない?」 うーん、陳腐な誘い文句ね、でもまあすることないし助教授に首突っ込むと墓穴掘りそうだしな。 これはセミナーの趣旨通り他大学の学生さんと仲良くしますか。 Yesの返事をしようとそちらの方へ向くと私より先に今井君が返事をしてた。 「いや、悪いけどこいつ先約があるから」 はい?先約って何? きょとんとなった私に視線だけで黙ってろって制し、なおかつ相手を威嚇する。 いや、そんなにあちこち威圧しなくっても、どうせあちらさんにも地元に帰れば彼女の一人や二人いるんだろうし。 今井君の迫力に押されたのか、誘ってくれた男子学生も「わかった」と一言いって立ち去ってしまった。 「うーー、今井君どうして断るの?」 「いや、翼ちゃんは俺とデート」 あいかわらずだ。ちょっとだけ見直した私がバカだったのよ。 宴会の途中で抜け出した、いや連れ出された私は今井君となぜだか湖のほとりを散歩している。 本気で嫌がってないから私も同罪だけどね。 今日はほんっといい天気だから星が良く見えるわー。 嫌なことがあったけどこうやって自然の中にいるとそんなこと忘れちゃいそう。 今井君は無言で私の手をひいている。 そういえばいつからこんなことしてたっけ? こいつっていつもいつもベタベタ触ってくるのよね。それがそれほど嫌じゃないって思い始めたのは最近のことで。 そんなことを考えていた私はいつのまにか立ち止まっていた今井君の背中に思いっきりぶつかってしまった。 「や、突然なに?」 抗議の声をあげると、こちらにすばやく振り返り両腕で私を抱え込む。 ええ?これってやばい体勢じゃない?逃げられないよ。ちょっと怯えた私に頭上から今井君の声が降り注ぐ。 「俺本気だから」 「本気で翼のこと好きだから」 いつにない真面目なこいつの声に何も返事をすることができなくて、私はただ黙って今井君の胸に自分の顔を沈めていた。 |