6.提案 |
先生が帰国してから、先輩から妙な話しを聞いた。 助教授がかわいらしい香水ビンを購入していたという話。 どう考えても助教授自身のものじゃないし。かといって家族用、とも思えない。 やっぱり彼女用かしら・・・。 先生のおみやげのチョコレートを食べながら考え込む。悩み事が多くって実験どころじゃないや。 「渡会さん、今日雑誌会だけど大丈夫?」 埒もないことを考えていたら、先輩に話し掛けられた。この人はある意味問題児の私でも呆れずに相手してくれる貴重な先輩なのだ。 「大丈夫・・・だといいです・・・」 語尾が自信のないものになっていく。この間の雑誌会(英語論文を要約してみなの前で発表するの)は散々だったからなぁ。 教授は呆れ、助教授はさじを投げたってかんじだったもん。せめて助教授にはいいとこみせたいじゃない? なのに本来の怠け癖と英語力のなさ、なにより有機化学嫌いが私を挫折させている。 きっと、今日も散々だろうなぁ。ごめんなさい皆さん、今日も長引きます。悪気はないのよーーーー。 私の予想に反して、雑誌会は一瞬で終了した。 だってタイトルで却下なんだもん。タイトルで。 おまけに助教授から 「そんなにお嫌いでしたら他の講座にいきなさい、他の者に迷惑ですから」 なんて最後通牒まで頂いた。 さすがにいつもは能天気な私も落ち込んだ。しかも自分が悪いのがわかりすぎるほどわから余計にね。 そんな私を見かねてなのか今井君がツーリングに誘ってくれた。今は深夜なので近くの海に行く程度だけれど。 「翼ちゃんはもうちょっと勉強せなあかんよ」 「うーーーーーーーん。わかってるんだけどねぇ」 ため息をつく。わかってるんだけれども、できないのよ。 「わかった、俺が家庭教師したる。俺の方が頭いいし」 はい?そりゃああんたのほうがはるかに頭いいけどさ、くやしいけど。仮にも後輩に教えを請うっていうのは、私のプライドが。 「そんなもんプライドじゃなくって、ただの見栄。これ以上やって助教授に嫌われてもええの?」 嫌、ソレは嫌。今でも十分印象はよくないけれど、ひょっとしたら見直してくれるかもしれないじゃない。 千里の道も一歩から!よ。こうして私は今井君の提案に乗ってしまった。 |