3.先生の笑顔 |
片思いしている私は研究室を選ぶとき、まっさきにここを選んだ。 理由は、言わずもがなの一ノ瀬先生。 チョコもプレゼントも拒否されてきたけど、研究室の一員になれば、ひょっとしたら受け取るぐらいはしてもらえるかも。 だいたい毎日理由もなく会えるもんね。これはまさに最大の利点よね。 有機化学が苦手なのにも関わらず、不純な動機で決定してしまった。 おかげで今研究で苦労している。センスないし、勉強苦手だし。 おまけにチョコ受け取ってもらえないし。 はぁ・・・。 今日の一ノ瀬先生もさわやかに誰にでも優しく話し掛けている。 特定の誰かに優しくするようなことはしないんだよね。 それは教育者としてはすばらしい態度なんだけれど、 乙女心としては微妙にこう、なんていうのか寂しいのよ。 資料を読んでいるフリをしてこんな不埒なことを考えていたら、背後から声がかかった。 「渡会さん」 助教授の声が聞こえる。幻聴かな。 「渡会さん!」 ええ!本物だ。びっくりして慌てて椅子から立ち上がる。ぼけっとしていたところを見られたかな? 「渡会さん、この間の実験の結果まとめてありますか?」 「え?この間ですか・・・・・・えーっと・・・・・・・・・してません」 忘れてたよ、完全に。どうしよう。 「はぁ、そうですか。今まで何されてたんですか?」 う、笑顔でそうきますか。いえいえ私が悪いのですが。 「すみません」 「渡会さんは有機化学に不向きみたいですからねぇ、配属変更されても結構ですよ」 「いえ、先生、がんばりますからここに置いて下さい」 「何度目ですか?そのセリフ」 にーーっこり。先生、目が笑ってないです。助教授は優しい言葉遣いだけれども、 言っていることはいつも辛らつ。言わせる私が悪いのだろうけど。 いつもの今井君のちょっかいも、ものともせずなんとかその日中に資料のまとめが完成した。 早く助教授のところへもっていこう!そう思って助教授室の前へ行くと、見たこともない笑顔でメールを打つ先生がいた。 ねぇ先生。誰にメール打ってたの? |