1.はじまり |
外には燦燦と降り注ぐ太陽。 何が悲しくて薄暗い部屋にいなきゃいけないの? 怒りの源とは違うところへ八つ当たりしてみる。 キレイにラッピングされた箱を横目で見ながらためいきをつく 雨雲をしょった私に、話し掛ける人もいなくて、どんどん気分が落ち込んでいったとき、 いつもの能天気な声が聞こえてきた。 「翼先輩あいかわらずご機嫌うるわしゅう」 「やかましい、これのどこが機嫌がいいんだ」 あいかわらずうるさいわね、今井のやつ。 こいつは今年度からうちの研究室に入ってきた4年生だ。 なぜだか知らないけれど、最初から気に入られて、毎日毎日からかわれる。 今日だってそう。私が先生に誕生日プレゼントを渡そうとしたら 「個人的なものはいただかないようにしているんですよ。すみません」 なんて、先生の顔をしてあっさり拒否されたのよ。 おかげで朝からテンションまっさかさま。受け取ってももらえないプレゼントはどうすりゃいいのよ! 「ええかげん、あきらめたらどうです?」 「大きなお世話よ。あきらめないったらあきらめない」 「しつこい女は嫌われますよ」 わかってるっつーの。脈がないことぐらい。でもひょっとしたら、もしかして両思いになれるかもしれないじゃない。 可能性はゼロじゃないのよ、先生に恋人ができない限り。 「ゼロやと思いますけどねー、可能性」 今日も今日とてしっかりとどめをさされた気分だ。毎日毎日これじゃあ、さすがの私の神経も傷付いちゃうのよ。 「で、僕と付き合いません?」 「い・や」 「そんなにはっきり言わんでも」 「しつこい男は嫌われるっちゅーの」 こんなことが毎日繰りかえされている。 まあ今の軽口で気分が大分上昇したけど。 渡会翼、修士1年生。現在助教授の一ノ瀬響先生に恋してます。 全く相手にされてないけど。 |