彼女までの距離

 和奈の様子がおかしいのは気がついていた。最近僕に触れることを戸惑っているようだ。
ひょっとして意識し始めている?
そう思い始めたとき、彼女が僕の差し出す手を拒否した。
その日はあの教師の個人補習の日だったはず、念のため田中さんにも一緒にいってもらったけれども、イッタイ何を言われたんだ?
心配して訊ねてみるけれども、貝みたいに押し黙って口を開いてくれない。そのくせ僕が触るとビクビクする。
異性として意識されることは嬉しいけれども、これでは意味がない。
でも、いったん意識し始めた僕への思いは間違いのないはずで…。
逡巡していたら、和奈が突拍子もないことを言い出した。

「僕と離れる気?」

咄嗟にそんなセリフがでてしまう。
彼女に関することでは僕は全然余裕なんてない。本当は誰の目にも触れさせないところに閉じ込めておきたいぐらいだ。 なのに僕から離れる?
一呼吸置いて考える。
確かに今のままの状態はお互いに辛いだろう。だけど僕に彼女の手を離せるか?
とてもじゃないがそんなことはできない。

 心の中の葛藤とは裏腹に、僕はその場で承諾していた。
本当なら、今はそんな余裕なんてない。とんでもなく強烈な邪魔者がいるから。
やつは強行に和奈のガードを打ち破って、心の中にまで入ってきている。元来人嫌いの彼女もそれほど嫌がっていない。
男性に免疫のない彼女が奴のアプローチに戸惑っているのは確かで、そんな思いを愛だの恋だのと錯覚されては困る。
今まで近くにいすぎて見えなかったものが見えてくるかもしれない。
僕を異性として意識してくれるかもしれない。
そんな望みを託して距離をおいた。

 別々に登校してからの和奈の異変にはすぐに気がついた。どうやら調子が悪いらしい。 もともと食も細くて、体も弱いのに、あまり食べていないみたいだ。
田中さんに様子を聞いてみると、案の定食事を口にしていないそうだ。
少し離れたぐらいでここまでバランスを崩すことに嬉しさを覚え、そこまで依存されていることに驚く。
自分が彼女をそういう人間にしておいて、よく言うよな、僕も。
彼女の周りの人間を牽制し、極力近づけない状態にしておいた。それが今裏目にでている。
自分自身の乱暴なやり方を本当に後悔するのは彼女が倒れたと聞いた後。
彼女がベッドに横たわっている姿を見て、もう二度と手放さない。そう誓った。
大切な幼馴染の彼女が僕だけの恋人になってくれる日を待って。

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lastupdate:7.17.2004 /KanzakiMiko