教室に着いたらさっそく友だちの美紀にからかわれた。
「あいかーらず、暑苦しいお二人で」
「いや、そんな暑苦しいって」
困ったように微笑んで答えると、
「実際、この高校に恋人同士がどれだけいるか知らないけど、
お手手つないで“毎日”登校している連中って、あんたのとこだけよ?」
「??だって祐君と手をつなぐのはいつものことだよ?昔からだし」
ガクッとうなだれて、美紀は何も言わなくなってしまった。大きなため息をついて。
そんなに呆れなくてもいいのに。
前の席に座り、私の机につっぷしたまま、友人は
「も、いい、このバカップル」
と、呟いてまた一つため息をついた。
ため息をつくと幸せが逃げちゃうぞー、と言いたいけど、また何かつっこまれそうなので黙っておく。
手をつないで登校するだけで-ばかっぷる-なら、ほとんど一緒に暮らしてる。なんて言ったらどうなるのだろう?
祐君の両親は現在アメリカへ長期出張中だ。
最初は祐君も一緒に行くはずだったけど、受験のことも考えて、日本に残ったのだ。
その際、昔から仲の良かった祐君の母親が、私の母へ、一人息子のことをお願いしていくのは当然の成り行きで、
祐君は、ほぼ毎日我が家へご飯を食べに来ている。
我が家も、兄である和幸が、大学進学とともに上京してさみしかったのか、
いや、元々お気に入りでもある祐君の世話を、我先にと焼いている。
ともかく、ほぼ毎日夜も一緒にご飯を食べている状況。しかも休日は泊まっていくし。
そんなこと話したら何を言われるのだろう。
色々考えていたら担任の先生が教室に入ってきた。朝のHRが始まる。
出席をとり終え、ふいに先生が
「酒口。話があるから放課後、数学準備室に来なさい」
いつものように、無表情で命令してきた。
この先生非常にオトコマエ(らしい)のだが、冷たいんだよね。表情や言動が。
それでも、数少ない若く綺麗な教師なので、えらく女生徒に人気がある。
で、その人気教師が何の用??
私目立たない地味な普通の生徒なのに。そう言って文句を言ったら、美紀にはたかれた。
いや、ほんとに目立たないつもりなんだけどね。