突然の告白4

「友だち?」
「うん」

祐君の機嫌が瞬く間に悪くなっていく。周りからみたら微妙な変化なんだけど、さすがにつきあっている年数が違う。手にとるように感情の変化がわかってしまう。

「和奈は?和奈自身はどう思ってるわけ?」
「どうって言われても、彼の事よく知らないし・・・」

初めて会ったのは、私が記憶を失っている時だし。次に出会っているはずの時は祐君に邪魔された。その次は憶えているけれど、余計なことを言われて切れたんだよね、私。
だから、実際のところ彼についての印象は、多少マイナスといったところだろうか。

「最近和奈の周りが騒がしい気がする」
「私もそう思う。だいたい友だちがいるって事がびっくりなのに」

中学の頃に少しだけ親しくしていた子はいるにはいた。けれども、友だちだと思っていたのは私だけ。ある時、彼女の方は祐君に近付く手段として私と仲良くしていただけだと知ってしまった。それ以来、なんとなく人とは距離を置くようにしていた。
だから、今のように美紀ちゃんのような友だちができたというだけでも、とってもとっても特別で嬉しいことなのに。

「まあ、気に入らないけど、彼は鈴木先生と違って害はないだろうからなぁ」
「害はないって、鈴木先生も今は害ないよ?」

祐君の目が一瞬細められる。

「だから、そんなに警戒しなくても」
「あの人は和奈に馴れ馴れしすぎる」
「う・・・・・・・・・それは、まあ、そうかもしれないけど」

なんとなく先生との距離に違和感を感じていない私は、いまいち祐君の言っていることには納得できない。

「まあ、十分気をつけて。としか言い様がない。和奈は変なところで頑固だから」

実感のたっぷりこもったセリフを恨みがましく言ってのける。

「でもね、友だちになるっていってもさ。何すればいいの?」
「どうせ、秋山先輩が絡んでるんだろ、何もしなくていいんじゃない?」
「なにか、含みがあるような」
「別に。あの人は油断ならないってこと」
「よくわかるような、わからないような」

そのままお昼休みは時間切れとなり、珍しく祐君と一緒だったお昼御飯は良く分からない会話で終了してしまった。
でも、本当に友だちになるってどうするんだろう。学年も性別も違うのに。
そんなことを考えていた私は、放課後にはすでに、祐君の予想が正しかったことを確認することとなる。





「こんにちは」
「えっと、こんにちは」

図書館でいつも使用しているテーブルの隣に陣取っているのは、確かに昨日の子。あまり使用人数が多くない放課後の図書館は、なんとなく各々が利用する場所が決まっている。図書館は入り口から順に普通の4人がけテーブルが幾つか、真ん中に蔵書の棚、間仕切りで一人で勉強できるスペースが確保できる4人がけのテーブルと続いている。で、私は鈴木先生がちょっかいかけることもあって、普通のテーブルで勉強していたのだけれど、ニコニコと昨日の男の子がその隣に座っている。

「ごめん、あの、名前教えてくれる」

尚子さんみたいに少年と呼ぶわけにはいかず、思わず名前を聞いてしまう。

「真柴です。真柴俊介」
「あ、はい。真柴君、ね。私は酒口和奈」
「知ってます」

思わず自己紹介をしかえした私に、あっさりと真柴君が返す。

「隣、いいですか?先に座っておいてなんですけど」
「えーーー、っと。うん。いいというか、どこ座っても自由だし」

ぎくしゃくとした空気の中、とりあえず椅子に腰掛ける。
相変わらずの数学の山を取り出し、とりあえず取り組んでみる。そういえば、チラリと「図書館のやつ」って鈴木先生が言っていたような言わないような。
雑念を振払うようにシャープペンシルを取り出し、カチカチと押して芯を出す。


嫌がらせのように毎日だされる宿題のおかげで、なんとく数学の低空飛行は通常飛行ぐらいに上昇している。それでも、その程度というのが、私の頭の限界かもしれない。

「よう」
「出たな悪魔」

半分程プリントが終了した私に声をかけたのは当然鈴木先生。
隣でなにか本を読んでいた真柴君も顔を上げる。

「やっぱり、おまえか」

ニヤリと笑う。真柴君はその笑顔に驚いている。確かに、この鉄仮面は私の前だとよく表情を表に出す。これが本性だと知ったら、ファンの子たちは喜ぶのだろうか、悲しむのだろうか。

「お友達ってやつか」
「そんなところです」
「よく高柳が許したな」
「祐君はそこまで心が狭くないです」
「まあ、取るに足らない相手と思っているわけだな、たぶん」

失礼な物言いに、さすがに真柴君の顔が引き攣る。

「昨日からなにか失礼じゃないですか?」
「だったら、お前そう言う意味で相手にするのか?」

意地悪な先生は答えようがない質問を返してくる。確かに、私が相手をするということは、所謂おつき合いをすることと同義となる。その当たりを無理矢理うやむやにして、友だち付き合いをするというのは、告白した相手にしてみたらどんな思いがするのだろうか。
例えば、私が祐君に振られて、それでもそのままただの幼馴染みでいて下さいと言われたら。
そう考えただけで、胸がズキリと痛む。
そんなことは私には耐えられない。

「まあ、あまり深く考えるな」

私の思考を先回りしてあっさりと釘を指す。

「それでもいいと言ったのはこいつだ」

それは、そうだけど。どういう会話が交わされているのか検討がつかない真柴君が首をかしげている。

「どうせ、和奈のことだから良く考えないで返事したんだろうが」

図星を指される。どうしてこの人には私の考えがわかってしまうのだろうか。

「まあいい、とりあえず明日は小テストだから覚悟しておけ」

サラリと数学が苦手な私にとって、爆弾発言を残して去っていく。

「鈴木先生っていつもああなんですか?」
「ええ・・・・・・いろいろな意味であんなのね」

色々なことで混乱した私は、真柴君の言葉に、やっと我にかえる。

「やっぱり、酒口先輩の周りはおもしろいです」
「ははは・・・・・・、そう?」

テスト赤点だったら補習だろうか、とか、真柴君とはこのままお友達でいいのか、だとか、色々考えることがあって、とりあえずそのおもしろい中に私が入ってるのかどうかを聞きそびれてしまった。

なんとなく、私の周りは騒がしいまま。
そっとしておいてはくれないらしい。

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KanzakiMiko/1.6.2006