突然の告白2

 心臓がまだどきどきいっている。
そっと胸に手をあてて確かめる。いつもと違う速度に、自分の動揺が見て取れて、さらにまた心拍数があがっていく。
あんなことを言われたのは祐君以外では初めてで、あまりのことにとっさにその意味がとれなかった。
子供の頃から祐君以外の人と仲良くすることは少なかったし、もちろんそれは私自身に興味がなかったせいでもあるのだけれど、それでもやっぱり人とつきあうこと事態に免疫があるわけじゃない。最近は少しずつ親しくしている人が多いけれど、それは友だちとしてであって、ああいう純粋な好意を向けられることには慣れていない。鈴木先生とは色々あったけれど、あの人の私に対する感情は複雑すぎて、好意だけじゃない部分が多すぎた。今では余計な重荷の部分がなくなって、お気に入りの生徒の領域をやや踏み外した程度の感情しか持っていないと思う。だから、とても困ってしまう。

 彼の事を知らないだとか、私には好きな人がいるだとか、今この場では色々言葉が出てくるのに、あの場所ではそんな言葉は欠片すら浮かんでこなかった。
どうしていいかわからなくてあそこを逃げ出すことしか考えられなかった。



あの後受けた授業はまるで耳に入らなくて、結局上の空で終わってしまった。早く授業から解放されたいのに、そんな時の時間の進み方はとても遅い。イライラする気持ちを落ち着かせるようにしながら、相変わらず縋り付く場所はあそこなのが情けないと思いながら廊下を歩いていく。

「失礼します!!」

返事も聞かずに準備室のドアを開ける。きちんと先生の顔をした鈴木先生が、なにやら仕事をしていた。私の顔を見た途端、にやりと笑い、すぐに私に見せるいつもの先生になってしまう。

「聞いたぞ」
「何を」
「廊下での告白騒動」

軽く絶句してしまう。まさか職員にまで伝わっているとは。世程この学校の先生方は暇なんだろうか。

「で、どうする?」
「どうするって言われても」
「あっちはあれでも真剣に言ってきたんだろうから、答えぐらい言ってやれよ」
「それは、そうだけど・・・」

どうしていいのかわからなくて、ただ聞いてほしくてここに来た私はますます混乱する。

「たぶん、図書館にいたやつだろ?」
「なにそれ?」
「おまえな、少しは自分に向けられる視線に敏感になった方がいいぞ」

ある意味、祐君と一緒にいるときはたくさんの視線にさらされるから、そう言う意味では慣れてはいるのだけども。

「ああいうの、はじめてだから」
「は?」

一瞬手に持っていたタバコを落としそうになっている。

「はじめてって、面と向かっていってきたバカってことか?」

コクリと頷く。
美紀ちゃんは私の事をモテルとからかうけれど、私に向かって直接何かを言って来た人は今まで誰もいない。手紙なんかはもらった記憶はあるけれど、一度いたずらで古典的に剃刀を入れてきた人がいて以来、確認作業は美紀ちゃんや祐君がしてくれる。だから私は未だに手紙が苦手。あんな風に突然見ず知らずの人間から、明らかにわかるほどの悪意を向けられて、平気ではいられないから。

「まあ、そうだな。お前の場合、高柳や田中がガードしてるからなぁ」
「それも、そうだけど。みんなが言うほどもてているわけじゃないってことじゃない?」
「自覚がないのもここまでくると困ったもんだな」

吸い終わったタバコを灰皿へ押し付ける。

「機会があったら、断りの返事でもしてやるんだな」

それしか答えがないのはわかってはいるけれど、やっぱりそういうことを口にするのは気が重い。たぶん、よほど嫌な顔をしていたのだろう、ぽんとポケットからのど飴を放りなげる。

「まあ、それでも舐めてろ」

大人しく彼の言葉に従う。

「やつはバカだが、性質は悪くなさそうだから、友だちとしてつきあうにはいいんじゃないか?」
「ともだちって」
「お前の周りは濃いやつが多すぎるからな、少しは濃度を薄めた方がいい」
「濃いって、祐君はさわやか系じゃない?時々何考えているかわからないけど」
「最近は秋山が加わったみたいだが、あいつもあいつでクセがあるし」
「尚子さんは優しいもん」
「そうやって感覚が麻痺しているのがまずいんだよな、だからああいう絵に描いたような普通の少年っていうのは貴重かもしれない」
「じゃあ、山田君も変???」
「ああ、あれも確かに普通だが、まあ・・・あんまり近付くな」
「今日の子はいいわけ?」
「あいつにお前が靡くわけないからな、別に大丈夫」
「よくわからないし」
「わからなくていい、あの程度が害がなくて丁度いいってことだ」
「なんか、とてつもなく失礼なことを言っている気がする」

綺麗な微笑をたたえ、長い足を無造作に組みながら私の髪を弄んでいる。なぜだかこの距離感が居心地がいいから恐ろしい。いつのまにか私の中に入り込んだ先生は、私にとっては兄や父に相当する人なのかもしれない。

「高柳がどうでるかがおもしろいが」

隣で呟いた言葉に一瞬で現実にかえってしまう。
職員である鈴木先生が知っている程の事を、祐君が知らないはずはない。
今日も一緒に帰ることになっているし、早晩彼に聞かれることは間違いない。
きっと、地味に機嫌が悪くなっているであろう彼を想像して気分が落ち込んでいく。

「おまえの責任じゃないから、堂々としてればいい。大体あいつがそんなことぐらいでがたがた言う方がおかしい」
「はぁ・・・」

軽く頬を撫で、優しい笑顔を浮かべる。いじわるなのが常なのに、いつもいつもいいタイミングで優しくしてくれる。だから、なんとなく私は先生に頼ることがやめられない。



重い足取りながらも、祐君との待ち合わせの場所へと向かう。
微妙な顔をした祐君は私の顔を見て、ほっとしたような顔を作る。

「ごめん、待たせた?」
「いや、今きたところだから」
「あの・・・」
「ん?」
「今日の事」
「ああ、山田から聞いた」
「えっと、ちゃんと断るから。っていっても彼の名前もクラスも知らないんだけどさ」

そっと私の右手を包み込み、ふんわりと彼の体温が伝わる。

「今までこういうことがなかったほうがおかしいんだよな、確かに」
「そう?」
「そう」
「機嫌、悪い?」
「良くはないね」

やっぱり、と思いながらぎゅっと彼の手を強く握りしめる。

「和奈のせいでもないし、今日の彼のせいでもないから大丈夫」

よくわならないけれど、それ程機嫌が悪くなっていないことに安心する。

「和奈、好きだよ」

今日は、本当にどうかしている。
突然の告白が2回。廊下での彼と、祐君。

「え、えーーーと、私も祐君が好き、だから」

こっちはきっと顔が赤くなっているのに、涼しげな顔をしている祐君はにっこりと笑う。
そこからはいつもの祐君に戻ってしまった。
心臓をバクバクさせている私を取り残して。

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KanzakiMiko/12.11.2005