傍にいたくて3

「あら、和奈ちゃん」
「尚子さん」

つい最近知り合ったばかりの秋山さんが、確か副部長さんだと思ったけど、小さい人と歩いている。

「高柳君はじめまして」

ちょっと得体の知れない笑顔で私の隣にいる祐君に挨拶をしている。

「はじめまして、お名前は存じ上げていますよ」

これまた、私に見せるのとは違う笑顔で祐君が応じる。
祐君は昔から私に接触する人物が現れることを嫌う。それを美紀ちゃんあたりは束縛していておかしい、と言うけれども、元々あんまり人付き合いが好きではない私にはどうでもいいことなのだ。

「はぁぁぁぁ・・・やっぱり目立つわね、おたくら」
「目立つ?」
「そうそう、どんなに遠くからでもわかるわよ、二人並んでると」
「そうかな?」
「その自覚の無さもまたかわいいんだけどねぇ」

そう言いながら私の頭をくしゃくしゃと撫でる。平均より少しだけ背の高い私がこうされることは珍しくて、同性相手だというのに照れてしまう。

「田中さんと仲がいいそうで」

祐君が私を引き寄せ、たぶん乱れたであろう髪を手櫛で直す。

「そうやって、和奈ちゃんを独占する」

ぷーっと頬を膨らませて抗議の声をあげる。でも、今のっていつも通りの行動だけど、他の人にはそう見えるのだろうか。

「別に、そんなつもりはありませんけど?」
「自覚なしに?なわけないでしょ、あんたの行動は全部計算済みっしょ」
「僕はそんなに狡猾じゃありませんよ、あなたと違って」

一瞬二人の間に青白い炎が見えた気がする。
両者のただならぬ雰囲気に感づいたのか、副部長の四宮さんの顔も心なしかひきつっている。

「箱入り娘にするものほどほどにしないと」
「彼女の自由意志ですが」
「そうとは感じさせないように、誘導しているだけでしょ、あんたが。それこそ餌付けしながら、まるで雛鳥のようにね」

雛鳥の単語に祐君が敏感に反応する。

「そこまでうまくいきませんよ、和奈相手に」
「誘導していますって自白したと思っていいわけ?」

まるで龍と虎の戦いのように両者とも睨みあったまま動こうともしない。祐君相手に何がしかの敵意を持って接する人間を余り見たことがないから、ものめずらしさに思わずこちらも見入ってしまう。
いつのまにか私のシャツを握り締めながら斜め後ろに立っている四宮先輩が小声で話しかける。

「秋山ちゃんってば、あれって同属嫌悪かしら」
「同属嫌悪?」
「うん、腹黒は腹黒に反応するのかなって」
「腹黒??」
「そうそう、ダテに秋山ちゃんの友達やってないからね、私も。そういうタイプの人間にはピンとくるようになったのよ」
「祐君も尚子さんも腹黒くないと思うけど」
「ええええええええええええええええええ!!」

突然叫びだした四宮さんの奇声に、緊張感が漂っていた祐君と尚子さんがこちらへ振り向く。

「酒口さんってば、それ本気で言ってるの?」
「本気ですよ、もちろん。祐君はいつでもやさしいし、尚子さんもちょっと変だけど面倒見がいい先輩だし」

最近はちょっと祐君がわからないってところもなくはないけど、基本的に彼はとても優しい。

「たいした教育の成果だこと」
「そちらこそ立派な仮面をお持ちで」

わけのわからないことを言い合う二人は、先程の緊張感はないもののちょっとぴりぴりしていたりする。

「和奈、帰ろう。おばさんが心配する」

そういえば、今日は元々帰宅時間が遅かった。こんなことをやっていたら、ますます遅くなってしまう。
尚子さんはなぜだか名残惜しそうにしている。

「和奈ちゃん、またね。今度は女の子同士の会話でもしましょう」

いつもの笑顔に戻って尚子さんが手を振ってくれる。その仕草に祐君と、固まっていた四宮さんが同時に「うさんくさい」と呟いた。



私の歩調に合わせてゆっくりと歩く祐君が話す。

「和奈は秋山先輩のこと好きなの?」
「好きっていうか、面白い人だと思う」

美紀ちゃんもかなり面倒見の良い姉御肌のところがあるけれど、尚子さんはさらにその上をいく。あまり同性の友達がいない私には貴重な話し相手なのだ。

「ふーーーん、そう」

面白くなさそうに祐君が呟く。

「美紀ちゃんはよくて秋山先輩はダメなの?」

ダメと言われても付き合いを断つつもりはないけれど。

「いや、珍しいなと思って、和奈が興味を示すなんて」
「そう?かな、そうだね。鈴木先生以来かなぁ・・・」

無意識に呟いたら、祐君の機嫌がシベリア気候ぐらいマイナスになってしまった。や、もちろん他意があったわけじゃなくて、ただ単に話していて嫌じゃない相手、興味を持った相手というのが鈴木先生以来ということだけで。
綺麗な顔なだけに機嫌が悪くなると迫力があったりする。道すがらすれ違う人々がその刺々しい雰囲気に驚いている。
彼の腕をそっと手にとる。

「友達じゃない好きは祐君だけだから」

幼馴染という殻を少しだけ破ったに過ぎない私たちは、恋人同士と呼ぶにはまだまだぎこちない。だけど、祐君を思う気持ちは友達の好きとは絶対違うものだから。
突然の言葉に祐君は首のあたりまで真っ赤になった。
いつでも私より余裕のある祐君がそんな姿をみせるのが珍しい。

「ずるいな・・・、和奈は」

こちらを見ないように私の手を握り締めて、わずかに早くなった歩調で帰り道を急ぐ。

あたりはすっかり暗くなり、街灯がそろそろ点灯し始めている。
無言のままでも心地いい、私の大切な空間。

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KanzakiMiko/10.4.2005