災難はどこからやってくるかわからない。球技大会といい、夏休みの出来事といい、今年の私は災難が付きまとう。だけど、こんなところでこんな形でやってくるだなんてやっぱり今年は厄年なのかもしれない。
「なんか騒がしくね?」
「ああ、姫のことだろ?」
姫と聞いて、黒髪の上級生を思い出すまでに少し時間がかかってしまった。
学校一の美少女だとか言ってもてはやされているらしい上級生は、入学当初から噂になっていた。わざと教室を通りかかってみたり、体育の時間などはグラウンドを余所見する生徒が後をたたないだとか、こっそり写真が裏取引されているとか、そういった風評には事欠かない人物だ。
だけど、話したこともないのに最初から反感を持っていた俺は、面白くなさそうな表情をしていると思う。
「なんか、姫があの髪をばっさり切ったらしい」
「は??それだけ?」
「それだけっておまえ、あーーーーーーーんな綺麗な髪もったいないだろうが」
力強く語るこいつは姫ファンの一人。しっかしむなしくないかね。
「男がいる女に群がって何が楽しいんだか」
「目の保養になるだろうが。それだけの価値がある顔だぞ、あの人は」
目がいっちまってる。
「そんなにいい女かね、たいしたことないと思うけど?」
そんなことを言ったら周り中から殴られる。
いや、だから人には好みってもんがあんだろうが。俺はもっと肉感的な女性が好きなの!
と言っても、極度の近眼で授業中はかなり度の強い眼鏡を掛けなきゃ黒板の文字が見えない俺が言っても説得力はないわな。
コンタクト嫌いで、眼鏡もうっとうしい俺は、授業以外はほとんど裸眼で通している。だから今目の前にいる友人の顔すらぼやけて見える。1m以内に近づけば見えるんだけどな、一応。
「んなことより次移動だろう、さっさと行こうぜ」
「やべぇ、おまえ急がないと遅れちまう」
周りを見渡すと、すでに移動済みなんだろう、俺と友人以外の誰も教室には残っていなかった。
大慌てで教科書を持ち、教室を駆け出す。
この時には、こんなことになるだなんて思ってもいなかったんだ。
まさか自分が彼氏もちの女に横恋慕するだなんて。
しかも思いっきり辛い恋になるだなんて。