「たかはしー」
グラウンドを食い入るように見つめていた私に声がかかる。
現実の世界に無理やり引き戻されたようで、一瞬頭が白くなる。
「あっ、と。ごめん私も日直だったね。何すればいい?」
「ああ、日誌書くから、黒板でも消して」
はーい、と無理やり明るい返事をして、黒板まで歩いていく。
黒板ふきを手にとり、さあって時に後ろから声がかかった。
「おい、おまえまだ高柳のことあきらめられないのか?」
どきっとした。私が高柳君のことを好きなのは女友だちなら、皆知っているけれど
まさか単なる同級生の男の子まで知っているとは。
私ってそんなに表にでやすいのかしら。ええ?ってことは高柳君にもばれちゃってるの?
うそぉ。などと固まったまま、頭の中で悲鳴をあげる。
おそるおそる振り返り、そのことをたずねてみた。
「いやー、あいつは姫以外のことには興味がないから。たぶん気が付いてない」
あ、やっぱり。そうだよね。興味ないよね。あんなに綺麗なヒトが隣にいたら私なんて
気が付いてももらえないよね。
そんなあたりまえのことに今更気が付いて、でも、そんな簡単にあきらめられるものじゃなくって。
私と高柳君の距離はこの教室とグラウンドよりも離れていることに実感しただけで・・・。
「高橋、おい、高橋」
橋本君が驚いた顔をして近寄ってきた。
今きっと、ひどい顔をしてるいから、あんまりみられたくはないんだけど。
橋本君は私の頭をぽんぽんってたたいて、
「わりぃ、泣かすつもりじゃなかったんだけど」
ええ?私泣いてるの?彼より驚いた顔をして、慌ててほほを触る。
泣いてる。
「うぇ、ごめん、泣く、つもりじゃ、泣くって、でも」
自覚すると、どんどん泣きたくなって、本格的に泣きじゃくって何を言っているかわからなくなる。
「ごめん、ほんとにごめん」
それっきり彼は黙ったまま私の頭を引き寄せ胸を貸してくれた。
思い切り泣いて、すっきりしたら、なんだかこの体勢は妙に恥ずかしい。ただの同級生なのに。
恥ずかしさを隠すようにして俯いたまま
「ありがと。泣いたらすっきりしちゃったよ。そういえば私、彼に何も伝えていないんだ。だからホントは泣く資格もないの」
「今度、伝えてみる。たぶん玉砕するだろうけど」
「その時には、また胸でもなんでもかしてやる。おまえもちっとは周りのいい男にも
目を向けろよ、例えば俺とか」
豪快に笑ったあと彼は日誌を届けに教室からでていった。
グラウンドにはまだ彼がいるはず。
今日あたり言ってみようか。
ほんのちょっとだけ勇気がでた。
lastupdate:10.19.2004