幕間-彼と彼女の場合-

Side彼
強烈な印象だったんだ。
黒い瞳に長い黒髪。今時って思われるかもしれないけど
彼女は、-姫-はとてもよくそれが似合っていた。
例えるなら日本人形。でも、彼女の顔立ちはどちらかというと西洋風。
くっきりした二重に、それを縁取る長いまつげ。黒目勝ちな瞳は
はっきりした意思をもち生命力に溢れている。

高校の入学式で君を見かけた。それが僕の初恋の始まり。

君の隣にはもうすでにお似合いの男がいたけれど。 


Side彼女
転勤族の親にくっついて回り転校すること4回。
初日にはあいかわらずドキドキするけれど
もう慣れたものかも。
まだ新しい制服が間に合わなかったので、前の学校の制服を着て
教室を覗く。
一瞬シンとなった。同級生たちの好奇の視線が浴びせられる。
やっぱり、これには慣れないかも。
そうつぶやきそうになる。
ちょっとうんざりした表情を取り繕い、笑顔を貼り付けてみる。
やたら背が高く人懐っこい笑顔の担任教師が私を招き入れた。
「あー、静かにしろーー、転入生を紹介するぞ」
「高橋、こっちで挨拶」
呼ばれて先生に近づく。深呼吸して同級生のほうへ体を向ける。
同じような教室、同じような学生、いつもと同じ光景のはずだった。

でも、

私の目に彼が飛び込んできた。セピア色の風景の中、彼だけは総天然色。
柔らかそうな茶色の髪。やさしそうな、それでいて周りと一線を画している瞳。
視線をはずせない。気が遠くなりそうなほど見つめていた気がする。

何もしゃべらない私を、促したのは担任の先生で、やっぱり見つめていたのは
一瞬だったのかもしれない。
「た、高橋純です、福岡から来ました。よろしくお願いします」
なんとか声を絞り出し、無難に挨拶を済ませた。

それが恋に落ちた瞬間だったと気が付いたのは、しばらくたった後のことで
彼にはもうお似合いの人が隣にいるのを知ってからだった。

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