一瞬無意識になった、素の彼女の視線を追う。
そんな自虐的なことをしなくてもいいのに、いつまでたっても俺はそれをやめることができないでいる。
ただ、不安なだけじゃない。
いつも、どこでも、求めているものの先には、俺じゃない別の誰かが立っているような気がして。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「それ、口癖だねぇ」
ティーポットから入れられた紅茶は、暖かい湯気を放つ。
少し猫舌の彼女は、カップを両手に抱えたまま、じっと程よい温度まで下がるのを待っている。
そんなときも、俺は、彼女の中のどこかが、違う誰かを探しているようで、落ち着かなくなる。
理由はわかっている。
偶然知ってしまった、彼女の過去。
友達だと言った、あの男が、ただの友達だったわけじゃない、ということを。
信用していないわけじゃない。
「そうそう、あの子がさー」
楽しそうに語る、その口から、あのトモダチ、の話しが出てきはしないかと、必要以上に神経を尖らせて彼女の言葉に耳を傾ける。
気づかれては、いないはずだ。
だけど、どこかで生まれた黒い気持ちは、いつでもドロドロとあふれ出しそうになっている。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「またーー、ほんっとーーに、いっつもそればっかり」
おどけて頬を少し膨らませる彼女を、かわいい、と、思う。
思いはするのに、それでも俺は、彼女の視線の先に、他の誰かがいるのではないかと探してしまう。
「帰ろうっか」
店をでて、あたりまえのように腕を取る彼女。
触れていれば、少しは気を紛らわすことができる、ということに気がつく。
いっそ、離れられないほど、彼女と溶け込めば、こんな気持ちなど忘れられるのかもしれないのに。
そんな邪まな思いが頭に掠めてしまうほど、俺の中に、「トモダチ」の影が侵食する。
「またねー」
家の前まで送り届け、笑顔でドアをくぐる彼女を見送る。
これで、何も探さなくてもすむ、という安堵と、目の届かないところで、彼女がどこかへ行ってしまいそうになる不安。
バランスが、とれない。
俺はもう、どこかが壊れているのかもしれない。