舞台裏3

「お前も反対なのか?」
「ルクレアさまですか?」
「ああ、あれほど華やかなのは、隣にいてこそだと思わないか?」
「その分王子の貧弱さが強調されますが?」

ルクレアと並び立つ王子、を想像して正直に答える。

「おまけにあの乳ときたら」

ルクレアを特徴付けるものの一つに、その豊満な体が上げられる。
どちらかというと華奢なだけの姉二人に対し、その中にも豊かな胸を併せ持つ彼女は、童顔とあいまって非常に怪しい魅力すらたたえている。

「それに結婚を何度も繰り返している人間は、さすがに王家が開かれているとはいえ迎えいれるわけにはまいりません」

本当は、他のところに理由があるのだが、宰相は敢て最もわかり易い理由を説明する。

「はぁ?あれはまだ若いだろうが」

この国の婚姻年齢は他国と比べ非常に高い。
それは温暖な気候と、緩やかな性格によるものだろうが、きわめて早く結婚する人間と、遅くする人間が同程度に存在するせい、でもある。女は結婚してこそ、といった風潮がないここでは、居心地の良い実家にいつまでも娘が居座ることを悪とはしない。いや、いっそ子供さえもうければ、嫁に行かずとも良い、と考える富裕層があるほどだ。

「しかも子持ち」
「は?はあああああああああああああああああ?」

王子の間抜けな絶叫が響く。

「一男二女」
「って、ほんとうなのか?」
「こんなことで嘘ついてどうするんですか。貴方をだましても何の得にもなりはしません」

呆れて言う宰相の胸倉を掴みつつ、狼狽した王子はルクレアの笑顔と豊かな肢体を思い出す。
あれで子持ち。
糸が切れたかのように専用の椅子へへたり込む。

「報告書には記載されていなかったが」
「調べてないんでしょ。そんなことは下町の猫でも知ってます」

ルクレアが結婚離婚を繰り返す恋多き女だ、ということは有名な話だ。なにせあのヴァイシイラ家の美女、おまけに本人は誰をも虜にする声をもつ歌姫だ。知らない方がどうかしている。
やはり、王子が頼んだ文官は、何の調査もしていない、どころかおもしろがって知っていることすら書いていないようだ。

「あきらめました?」
「・・・・・・ああ」

書類を用意し、八つ当たりを開始した宰相に王子の懲りない一言が投げつけられる。

「だが、まだ二人残っている!」

宰相が書類を握る手に力が篭ったのも致し方がないことだろう。
ちなみに、ルクレアが彼女を追っていった護衛騎士と三度目の結婚をするのはまた別の話。今度こそ家人に認められ、まっとうな婿として迎えられた彼は、その職業とは違って非常に波乱万丈な人生を送ることとなった。