「あれは、あれはいったいどういう女なんだ!」
最初の印象が良かった分だけ、その落胆は大きかったようで、声を荒げ宰相に怒鳴りつける。
「ダリア様でしたら、高名な学者でしょう。王子も随分とお世話になっているはずですが」
「知らん!そんなものの世話にはなっておらん」
「王子はよく熱を出しますでしょう?そうしたら医師から熱さましの薬をもらいますでしょ?」
「あの魂がひっくり返りそうなぐらい苦い薬のことか」
「それです。あれを作ったのが彼女ですよ」
「なんだと!あんなまずいものを世に出すだなんて、どれ程悪党なんだ」
「だからあなたは馬鹿なんですよ」
あっさりと言い切り、宰相は懇々と説明を施す。
曰く、彼女によって開発された新しい熱さましは、害も与えず、確実に効くと評判の薬であり、それにより高熱によって齎される様々な後遺症も随分と軽減されたと評価されている。何よりその製法により、薬価が非常に安く抑えられ、庶民にも十分手の届くその薬は、まさに神の贈り物として広く愛されている。
それを、どういうわけか国家管理ではなく、ヴァイシイラ家が一手に取り仕切っているというのは、研究所の研究員たちがぼんくらだったせいであり、当時を思い出し少しだけ宰相は王子に八つ当たりをしたい気持ちとなる。
「それに大体ダリアさまの頭脳をあなたが御せるはずはないでしょう」
「お前も大概失礼なやつだな」
「正直なだけですよ、私は」
不毛な会話が繰り返され、宰相はため息をつく。
王子は、これをいつまで続ける気だと。
宰相の記憶が確かならば、あの有名な一家には五人の娘がいたはずだ。
すでに長女には体よくあしらわれ、次女には見下げられた。
残り三人の反応を想像して、宰相は眉間に皺をよせた。