おわり

 セリはただぼんやりと空を見上げていた。

「お嬢様、お風邪をめしますよ?」

大慌てで柔らかな肩掛けを手に持ち、侍女がセリに近寄る。
第五王子ローゼルの妻として迎え入れられたセリは、研究以外することのない生活を満喫していた。
もともと女中やら下働きが山ほど居る家で育った彼女は、そういったものたちの扱いにも慣れている。卑下しすぎず、尊大になりすぎず。アベリアから自然と学んだその術は、遺憾なくこの場で発揮されている。
そして、ローゼルは人が変わったかのようにセリへとべったりとひっつき、時折セリにうっとうしい、と罵声を浴びせられている。
それすらも一つの快感かのように喜んで受け入れている王子は、確かに変態だと、屋敷のものは誰もが残念な王子にため息をついている。

「ありがとう」

室内へと促されセリは大人しく従う。

「お嬢様、また」

ローゼルから贈られたものを運び込んだものが、ややうんざりした顔をしてそれらを指差した。
屋敷の中にもそれらに価値を見出すものはいない。
古びた、カビの生えたような書物に興味を持つものはあまりいないだろう。
だが、それはセリにとっては魂を売っても、いや肉体を売っても欲しいと思ってやまないほど価値のあるものなのである。
思わず不気味に笑ったセリははやる心を抑え、彼らをねぎらった。
ああ、売ってよかった。
と、思ったのか思わなかったのか。
セリの毎日は充実している。
たとえその隣に変態王子が粘着質に絡んだとしても。
セリは、たぶん、きっと恐らく幸せである。