気疲れの夏・後編
 本日はやけ酒をあおった友人との食事。
あれからもう4ヶ月もたったのかと思うと驚きだ。あれだけ長いこと付き合った相手と別れて、辛いだろうな、 なんて思っていたらそんなことを考える暇がないぐらい変なことが起こったから。主にというかほとんど大越さん絡みなんだけど。

「それって、理佐のこと好きなんじゃないの?」
「はい?」

大越さんの挙動不審振りを話し込んでいたら、突然そんなことを言われてしまった。

「ないない、ありえないって」
「ありえないって、どうして?」
「うーん、あの人もてるんだよね、すっごく。秘書課やら庶務課に彼女がいっぱいいるって話しだし」
「それって本人に聞いたの?」

本人に聞いたわけじゃないけど、常に彼女がいるっていう噂は頻繁に耳にする。そういえば最近はそんなこともないけれど。

「理佐ってもてるんだよ?すっごく」

寝耳に水とはこのことで、目の前の友人は唐突に変なことを言い出した。

「もてるって、誰が」
「理佐が」

ないですそんなこと、それこそありえないです。

「あ、やっぱり気が付いてなかったんだ。学生のうちは卓也がガードしてたからね、隙がなかったみたい」

元彼の名前がサラッとでてくる。
確かに学生時代同じ学科の私たちは常に一緒にいた記憶がある。

「あれと別れたって知って、声掛けようとした連中山程いるんだから。私が握りつぶしておいたけど」

さすがに、同級生に振られて次に同級生っていうのはつらいでしょ?なんてのほほんとおっしゃった。 その通りだから彼女には逆らえない。そういえば彼女はそういった処理が非常に得意な人だった。

「でも、やっぱり大越さんがそうだなんて思えないんだよねー、誰にでも優しいし」
「私もその人を見てないからはっきりいえないけどさ、普通好きでもない人間をデートに誘わないよ」

デートって、あれもデートですかね、やっぱり。

「そりゃデートでしょ。何も言われてないの?」
「何もって・・・うーん、言われてない、と思う」

いや、今何か思い出したような気もするけど、気のせい気のせいと頭を振る。

「あなたは鈍いからねぇ」

なんて苦笑いされてしまった。

「そういえば、卓也のとこすでにうまくいってないんだって」
「うまくいってないって?」

こっそり二股かけてまで手に入れたかった彼女なはずなのに、どうしてもう亀裂がはいるのか。

「もともと妊娠発覚後の結婚らしいし、それが流産しちゃったものだからギクシャクしてるってさ」

なんて勝手な。妊娠するようなことをしておいて、だめになったから関係も危うくなるなんて。 彼女にとっては二重にショックなことなんじゃないの?

「やっぱり私見る目がなかったんだね」

浮気されていたことよりも、自分が付き合っていた男のレベルの低さに愕然とする。
いったい私はどこをみて付き合っていたのか。

「まあまあ、若気の至りってのは誰にでもあることだし」
「はあ・・・なんか慰めてくれてる?」
「私はあいつと理佐が別れてくれてほっとしたんだから。あんなやつには理佐はもったいないもん」

学生時代さりげなく彼女が他の男を紹介してくれたことを思い出す。当時の私は紹介されている意識もなく、 全てが空振りに終わったんだけど。

「それでね、これはちょっと本気の警告なんだけど、卓也があなたの居場所を探し回ってるらしいよ」

彼が結婚するって知った後すぐ、私は引越しをして、携帯も代えた。
実家の住所は長い付き合いなのでさすがに知っているだろうし、それを代えることはできないけど。

「うん・・・わかった、実家には口止めしておくよ」
「私のほうも周りに口止めしておくね」

嫌な話はもうおしまいとばかりに、そこから先は彼女ののろけ話と、会社の愚痴で盛り上がっていった。



 その日の食事はとても美味しくて、少しだけお酒を飲んだ私はほろ酔い気分で駅へと急ぐ。
彼女は彼氏がお迎えに来るそうだ。送ってくって言われたけど、邪魔をしたくないので固く遠慮しておく。
飲食店とその奥にはホテル街、と、あまり一人歩きしたくはない通りを足早に進む。
街灯の下、痴話げんかをする男女二人。
ここではそんな光景は日常茶飯事なのか、周囲にいる誰も気に止めずに歩きつづけている。
私もそんなものには興味がないので、歩調を速め、通り過ぎようとした。

だけど、そこには見知った顔が一人、こちらを見て驚愕していた。
こんなところで会うとは思ってもみなかった人物。
大越さんが華奢でかわいらしい彼女と喧嘩している最中だった。

まるっきり無視するのもあれなので、軽く会釈だけをし、駅まで一気に走っていった。
胸にぽっかり穴が開いたような気がする。
どうしよう、ものすごくへんなかんじ。
なんとも思っていなかった彼が女性と一緒にいるところを見てしまった。
少なからず動いてしまった感情を持て余す。

「なんだ・・やっぱり彼女いるじゃない」

人知れず呟く。

気疲れした夏が終わり季節がそろそろ動き出す。


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8.30.2004update
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