こんな恋の深め方vol6 7.9.2004
6.夏休み
 やっと前記試験が終了して、気分はすでに夏休み!と言っても肝心の一ノ瀬さんはお仕事だし、 友だちのあきちゃんは夏中プールの監視員のバイトをするそうだ。
真っ白なスケジュール帳を覗き込みながらため息をつく。やっぱり私もバイトを入れておけばよかった。 そう思ってみても、土曜日の本屋のバイト以外労働意欲があるか?といわれればそうでもないし。
はあ、と、ため息をついてベッドに横たわる。
 そういえばあきちゃんがプールのただ券をくれたよね。二人でおいでって。一ノ瀬さん見たさに押し付けられた券だけれど、 ちょっと誘ってみちゃおうかな・・・。
早速ケータイにメールを入れる。最初こそパソコンのメールだけだったけれど、最近はケータイメールにも慣れてきたみたい。
どこかの日曜日にでも一緒に行ければ。すこーしドキドキしながらメールを送信する。
うん、なんか私からデートに誘うのって初めてかもしれない。
緊張しながらも待った返事にはいいですよ、の文字が。
う、今ごろになって恥ずかしくなってきた。だって、一ノ瀬さんの前で水着になるんだよ。 スタイルに自信があるわけじゃないのに。そんな当たり前のことに今ごろ気が付いてうろたえる。 こんなことで恥ずかしがってたら、その先なんて・・・。考え出したら頭が痛くなってきた。もう今日は寝ちゃおう。

 嫌になるぐらい晴れた今日。なんと一ノ瀬さんとデート。しかもプール。
約束をしたのがなぜかあっさりあきちゃんにばれて、バイト帰りの彼女にデパートに連れて行かれてしまった。 もちろん新作の水着を買うために。だけど、うーん、これ着る勇気がないような、かといって他の水着ってスクール水着しかないし。 大学2年にもなって変だよね、それって。意を決して更衣室で着替える。
 極度に緊張しながら更衣室を出てシャワーを浴びる。とりあえず上着を羽織って一ノ瀬さんを探す。
あ、いた。背が高いからすぐにわかる。こちらを向いていないので呼びかけるしかないのだけれど、それでもまだ躊躇っていたら、 ふいに彼がこちらを向いた。
 一ノ瀬さん固まってる。じーっとこっちを見ながら目が点ってかんじだろうか。やっぱり似合ってないのかな、 それとも胸がないとか思われてるのかしら、でもでも響さんはそんなこと思わないだろうし、 でも!どう言っていいかわからず(たぶん)真っ赤になって俯いている私に気がついたのか、やっと彼が口を開いた。

「千春さん・・・その水着」

え?やっぱり似合わない?あきちゃんセレクトで絶対これってお勧めのものだったけど。
やっぱり黙ったままの私に、あわてて付け加える。

「あ、いえ、あの。お似合いです・・・けど、その、はい」

しどろもどろになって説明する一ノ瀬さん。この雰囲気は気まずい。

「あの。とりあえず水に浮かびませんか?」

 持参した浮き輪を見せながら提案する。どうせ今日は泳ぐ目的で来ているわけじゃないんだから、 二人でのんびり水遊びぐらいの気持ちだし。

「あ、はい」

 真っ赤になって手で口を押さえている。なんだろう?やっぱり私、変?
えっと、このままだとはぐれちゃうよね、人多いし。何の気なしにいつも通り腕を絡めたら、また固まってしまった。

「あの、千春さん。今日はそれはちょっと・・・」

 そう言って手をがっちりつながれてしまった。私としてはどちらでもいいんだけど、よくわからないや、一ノ瀬さん。
わけもわからずにチョットだけギクシャクしながらも午前中はプールに浮かんで楽しく過ごした。 プールなんて高校のとき以来だけれど、楽しいな。一ノ瀬さんと一緒だからかもしれないけれど。

「あ、ちーちゃんめっけ」

備え付けのパラソルの中で休憩していたら、よく聞き慣れた声がかかった。言わずと知れたあきちゃんだ。

「あきちゃん」

苦笑しながら彼女の方を見る。ここの監視員の制服なのかおそろいのTシャツに単パンといった格好。 でも彼女はスタイル美人さんなのでとっても似合う。
あきちゃんの視線は当然のことながら私の左隣にいる人へ釘付けになる。

「はじめまして。伊藤亜紀です」
「こちらこそはじめまして、一ノ瀬響です」

にっこり笑いあう二人、だけどあきちゃんの値踏みをするような視線は隠せない。なんて言われるのかしら。

「ふっふっふ、一ノ瀬さん、ちーちゃんの水着かわいいでしょう?」

は?どうしてそちらの方向へいくのかしら。

「へ?はあ。かわいい、ですが」

珍しく視線を泳がせて言い淀む。やっぱり似合わないのかしら。
しょぼんとなっている私の肩を組んで言い放つ。

「やだなー、これぐらい当然でしょ、今は」
「いや、ですがコレは少し」
「周り見てくださいよ、こんなんばっかりでしょ」
「・・・」

再び掌を顔に当てて言い淀む。

「ビキニなんて普通ですよ、普通。これなんてまだ布地が多い方ですから」

 じゃあ、仕事があるので、と、掌をヒラヒラさせて持ち場に戻ってしまった。
私に「いい人そうじゃん、ちーちゃん正解」という言葉を残して。
残された私たちはといえば、お互い真っ赤になって俯くばかり。
今日は色々なことがあった。
彼の研究室の学生さん達にも会って、これ以上ないってぐらい不機嫌な顔の一ノ瀬さんが見れた。 あきちゃんにあって、ものすごく照れている一ノ瀬さんが見れた。
少しずつでも色々な表情の彼が見られたことは今日の一番の収穫だったかもしれない。



 帰りの車の中で疲れてしまったのか助手席で眠ってしまった。
気がつくともうすぐ家の前、私は緊張に押しつぶされそうになりながらも一世一代のわがままを言ってみることにした。

「一ノ瀬さんのおうちに行きたい」
「え?でももうすぐ夕食の時間ですよ」
「うん、でも、今日はあきちゃん家に泊まることになってるから・・・」

なんて言われるのか怖くって俯いたまま。
どうしよう一ノ瀬さんが困ってる。沈黙が重たい。
こんなこと言い出すんじゃなかった、と後悔し始めたころ、一ノ瀬さんがポンポンって頭を撫でてくれた。私を落ち着かすように。

「わかりました、でも私の部屋はちらかってますよ」

 ゆっくり見上げた彼の顔は困ったような風情を称え、それでもいつものように微笑みかけてくれた。
心臓がばくばくいってる。ちょっとだけ息が苦しい。
一生分の勇気を使い果たした気分。

一ノ瀬さんに手を引かれ、私は初めて彼の家へお邪魔した。


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