こんな恋の深め方vol4 6.28.2004
4.面接の日(2)
「そんなに歳が離れてるんじゃあなぁ、ちょっと。せめて平川君ぐらいなら」

そう言うと隣の男性を見る。早速欠点を見つけた!って顔をしている。
かしこまって一ノ瀬さんの話を聞いていた彼は、途端に自己紹介を始めた。

「平川京介27歳です。仕事ではいつも部長にお世話になっております」

一ノ瀬さんが訝しげな表情で見ている。それはそうだよね、挨拶にきて別の男がいたら不思議よ、普通。
とりあえず余計なことを言わせないように、と口をはさもうとしたら、例の若い男-平川氏-が先に口を開いた。

「僕の方がふさわしいと思いますよ、歳も近いですし、こうしてお父上も賛成して下さるし」
「年は・・・関係ないです」

やっと言葉が出た。こう言うとき思ったことをスラスラいえない性格は嫌になる。
でも、これは明らかに打ちの父の嫌がらせだから、私が響さんを守らなくちゃ。 雰囲気に飲み込ませて何も言えなくなりそうな自分を奮い立たせた。

「いや、そういうが千春、千春はまだ若いんだし色々な人を見てから決める、というのもいいんじゃないかい」
「じゃあ、お見合いはどういう意味なの?」

私の一言に一ノ瀬さんがびっくりしている。ごめんなさい黙っていて。でもこんなバカな話とてもじゃないけど言えなかったの。
笑顔だけど微妙に怒りを含んでいる一ノ瀬さんは、とても冷静に父に対して切り返す。

「千春さんがお若いのは承知しております。でも、私には彼女が必要なのです」

静かに決意の含んだ声でそう告げる。
両親の前でここまで言い切れる男性はなかなかいないかもしれない。
彼のあまりに真摯な態度に両親ともに黙り込んでしまった。もともと年齢以外いちゃもんつけるようなところはないはず。
黙ってしまった父に代わり、平川さんが質問してきた。

「失礼ですけど、大学の教員レベルで彼女と生活ができるんですか?」

ストレートな質問。でもちょっと失礼だと思う。

「は?ええまあ、人並みには」

質問の意図が汲み取れないようで、曖昧に答える。

「私は、妻となる人には家庭に入ってもらいたいと考えています。もちろんそれを可能とするだけの収入もあるつもりです」
「ああ、そういうお話ですか。ええ、千春さんがそうしたいならば、できますよ。今の収入で」

にっこり威圧しながら答える。

「就職先は一部上場ですし、学歴だってあなたに負けていない。引き下がったらどうですか?」

なんか、私を置いてきぼりにして会話をしているような。それになんだかあまり感じがよくない、この人。 母の方を見ると微妙に眉根が寄っているような・・。不機嫌だわ、おかあさん。

「あの・・・。収入とかそういうのは関係ないと思います。それになければ私も働けばいいですし」
「千春さん、心配しなくても大丈夫ですよ。あなたと暮らせるだけの稼ぎがなければこちらへ挨拶へは来れません」

諭すように私に話し掛けてくれる。このまま胸に飛び込んでいきたい衝動にかられる。 ここまでこの人にのめり込んでいるのに、他の人のことなんて考えられない。

「あ、もちろん千春さんが働きたいとおっしゃるのなら、そうされてもいいですし。こう見えても家事が得意なんです」

とろけるような笑顔が眩しい。将来二人でキッチンに立つ姿なんて想像してにやけてしまう。

「で、どこ出身なんですか?」

とげとげしい物言いで水を差す件の若い男。一瞬この人の存在を忘れてた。

「どこ?ですか?」
「私はT大ですが」
「はあ・・・。それが何か?」

出身地じゃなくって出身大学なのね。 結局これが自慢したかったのかな。私のレベルでは遠くにありすぎて実感湧かない大学だよね、それって。 彼の意図が測りかねて、皆口が開けずにいる。仕方がないので私が質問をしてみる。

「あの、それではもう少し偏差値の高い女子大の女性がよいのではないですか?」
「いえ、女性は少し足りない方がかわいいですから」

ブチッ
アタマの血管が切れる音かしら。
この人なに?出身大学が自慢でしかも女性はバカな方がいいってこと?
こんな人がお父さん推薦の男?????
父を睨むとチョットばつが悪そうな顔をしている。さすがに今の発言は不快なものだったらしい。

「はあ、私の後輩にそんなレベルの人間がいるなんて、情けない限りです」

一ノ瀬さんが悲しそうに呟いた。
え?一ノ瀬さんもT大出なの?
全然知らなかった。そういえば、出身大学も出身地も知らないよー、私。
心底驚いた顔をして彼のほうを振り返ると、私の右手を取り、肩を抱き寄せた。
いつものように私の頭を撫でながら続ける。

「出身大学を今ごろ声高に叫ぶのは中身のない人間のすることですし、女性は自分と対等な関係を結べる人がいいです」
「それに・・・・、アタマの良し悪しを大学のレベルで決め付けるような 了見の狭さも己のレベルの低さを露呈しているものだと思いますよ」

この人がこんなにきついことを言うのを初めて見た。
しかも私のことをかばってくれているんだよね、これって。
心底呆れた風に言われた件の男性は真っ赤になって俯いている。この人ってば出身大学しか自慢するものがなかったのかしら。
それが目の前のライバル(?)にあっさり打ち砕かれて次の手を打てないみたい。
ほんとにどうしてこういう人がお勧めの人なの?おとうさん。
もう一度父のほうを見ると、こちらも貝のように黙ってしまっている。

「話が途中でしたね。先ほどの続きなのですが、お許しいただけませんか?」

両親の方に向き直り、あらためて問う響さん。
悔しさに打ちひしがれる男と、それを眺めつつ押し黙る男。両者を尻目にやはり決断を下すのは母だった。 最初からこちらのみを目標にしておけばよかったのよ。

「私気に入っちゃった♪」

その能天気な一言で井川家の意思は決定していた。

何をしに来たのか良く分からない平川さんは結局暗黙のうちに帰宅を促され、 後に残った一ノ瀬さんと私たち家族はそのまま夕食へと突入した。
良く考えたらあの人もかわいそうだよね、なんか当て馬にされちゃったみたいだし。
これもすべておとうさんが悪いんだわ、後で文句言っておかないと。
そんな私の思惑に気づかずにうやむやのうちに交際を認めることになってしまった父は情けない顔をしながら一緒にお酒を飲んでいた。


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