| 3.面接の日(1) |
次の日曜日、さっそく両親に会う約束を取り付けた。うちの親は、片方がわくわくと、 もう片方がしぶしぶといったかんじで承知した。 響さんが来るのが4時だから、と朝から何度も時計の針を見る。部屋の掃除や晩御飯の下準備、服装のチェック。 何をしていても時間が経つのが遅い。こんなんじゃ、神経やられちゃうよーーー、 と愚痴をこぼしそうになったらやっと玄関のチャイムがなった。 （わ、響さんだ） 「私、玄関に行くね」 返事も待たずにかけてゆく。 緊張するよう、と呟きながらドアを開けると、そこには期待した人物の代わりに なにやら良質のスーツを着込んだ若い男が立っていた。 「あの、どちら様ですか？」 「あ、始めまして。私、平川京介と申します。今日はお招きにあずかりましてありがとうございます」 「はい？」 突然の出来事にしばらく対応できないでいると、後ろから父親の声が聞こえてきた。 「ああ、平川君、いらっしゃい。良く来てくれたね」 おとうさん、この人誰ですか？それにどうしてこんな日に呼ぶのよ。 「こら、千春、挨拶なさい。平川君すまないね、気のきかない娘で」 「いえ部長、噂以上にかわいらしいお嬢さんで」 青年がおとうさんの部下なのはわかった。問題はどうして今日ここにいるのか、ということよ。 そこまで考えて嫌な考えに思い当たった。もしかしてもしかするとこの人が例のお見合い相手？まだあきらめてなかったの！ というかどうして鉢合わせさせるような真似をするのよ。響さんに失礼でしょ。 軽く父親を睨むととぼけた顔をして若い男を居間へ案内していた。 まさしく呆然と口をあけてぽかんとしていた私に、再び後ろから声がかかる。 くるっと振り向くとそこには待ちわびていた一ノ瀬さんが立っていた。 「響さん！！」 「千春さん、少し遅れましたか？」 「ううん、全然。今日はごめんなさい、呼びつけた格好になってしまって」 「いいえ、私のほうがお家へ伺うのは当然のことですから」 大好きな笑顔で答えてくれる。ここでいつもなら抱きつくところだけれど、自宅なので自粛する。 居間の方から好奇心と疑惑の視線が突き刺さっていることだしね。 一ノ瀬さんを居間へと促すとそこでは同じソファーに座った両親と若い男の姿があった。選択の余地がないので、 私たちはローテーブルをはさんで反対側に座る。これではまるでホームとアウェイじゃない？あっちは敵ってこと？ 「とりあえずお茶でも」 と、いそいそとお茶を煎れにいった母を尻目に父が値踏みするような視線をよこす。 その視線をおっとりと受け流す響さん。やっぱり伊達に歳は取ってないかもしれない。 人数分のお茶が配られ、母がソファーに腰をおろしたところで一ノ瀬さんが口火を切った。 「はじめまして、一ノ瀬響です。今日はお時間をいただきましてありがとうございます」 緊張感が流れる。こういう雰囲気は苦手かもしれない。 「千春さんとは真剣に交際をさせていただいております。できればご両親にも認められた形で交際ができればと思いまして、 本日こちらへご挨拶に参りました」 心なしか緊張した様子の一ノ瀬さんの挨拶。私はそっと父の顔を窺う。 「で、職業は？」 「はい、N大学で教師をしております」 「は?教師って、教授とか助教授とかっていう、あれか？」 あまり聞きなれない職業に思わず問い直す父。あまり接点のない人たちだからねぇ。 「まだ助教授ですが」 すかさずにっこり。父のフランクな口調に少し緊張がほぐれてきたみたい。 「助教授なの？まだお若いのに」 興奮しつつそうたずねるのは朝からはしゃいでいる母だ。 「いえ、そう若くはないんですよ。なにしろもう31ですから」 一瞬居間に沈黙が訪れた。やっぱり年齢でひいてる。最初は私も戸惑ったから仕方ないけど。 一番立ち直りが早かったのはやっぱり母だった。 「31歳。といいますと一回りですよね」 「はい、そうですね。そのことでは私もずいぶん悩みましたが」 「という事は私との方が年齢が近い、ということかしら・・・・」 忘れていたけど40歳の母と一ノ瀬さんは9つ違い。確かに母の方が、年齢が近い。 今度は一ノ瀬さんが固まる番だった。 「え？そんなにお若いんですか？」 これはたぶん私との年齢差を改めて認識して発した言葉だったんだろうけれど、 母は“若い”というところにだけ敏感に反応してとたんに上機嫌になった。 よし、おかあさんは陥落ね。 |