4.電話 |
一ノ瀬さんとの食事から一週間近く。なんのリアクションもない。やっぱり年齢で引いてたんだなー、きっと。 最後の最後で自己紹介をした私の年が-19歳-未成年だと知った時の一ノ瀬さんは、とても呆然とした顔をしていた。 その顔に驚いた私に気がつき、すぐ取り繕ってたけど、 私の年齢を聞いて驚いていたのは一目瞭然で、その後の会話はとてもぎこちないものになってしまった。 19歳と31歳。 そりゃあ驚くよね。私としても肩書きを聞いたときに覚悟はしていたけど、まさか30代だとは思わなかった。 相手も私のことは23-4歳ぐらいだと思っていたらしい。 研究室の学生さんよりしっかりしていそうだからこのぐらいだと検討をつけていたみたい。 決して、私が老けて見えるわけでは、って余計な言い訳もしていたっけ。 土曜の夜だというのに、何の約束もない私は、部屋でゴロゴロしていた。 最初は自分から断ったというのに、あっちが引くと、自分でもかなりダメージを受けていることに気がついた。 私って勝手だな。 年齢をたてに断っておいて、逆にそれを理由に断られたら傷付いちゃうなんて・・。 思っていた以上にダメージが大きいらしい。 何もやる気が起こらず、ベッドの上でじっと音楽を聞いていたときに、枕もとに置いたケータイが鳴った。 誰だろ? ディスプレイをみると知らない番号。 間違いかな?と思いいつつ、電話にでてみる。 「もしもし?」 「あ、もしもし、千春さんですか?僕です、一ノ瀬です」 うそ、一ノ瀬さんだ。え?今ケータイからだよねって。そうじゃなくってどうして? 混乱しながら彼の次の言葉を待つ。 「千春さん、先日は不快な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」 なんだそういうことか、謝りの電話なわけね。律儀な人だな。 内心ものすごくがっかりしているのに、気がつかれないように気丈に声をだす 「いえ、一回りも離れてるって知ったら、誰でも驚きますよ。」 「はい、驚いたのは事実なんですが・・・」 事実だよね、私も驚いたもん。 それで断られるわけね、正式に。なんとなく癪に障って、はぐらかしてみたくなった。 「コレ、ケータイからですよね。持ってたんですか?やっぱり」 「いえ、違うんです!あの、千春さんと連絡を取るにはこちらのほうがいいかと思って、次の日に買いにいったんです。」 私のため?でもどうして? 「千春さん、家の電話には連絡しづらそうだったから」 私の考えを読むように答える。 でも、もう必要ないんじゃあ・・。 お互い話すことがなくって、気まずい沈黙が流れる。心なしか彼は緊張しているみたい。 これ以上黙っていると、気分が沈みきってしまう、と思い、電話を切るべく切り出してみた。 「あの」「千春さん」 ほぼ同時に話し始めてしまった。 「あの、一ノ瀬さん、先にどうぞ」 先を促す。 「はい、あの、千春さん。千春さんさえよろしければ、なのですが・・・」 「はい?」 今日の彼はとても歯切れが悪い。優しい人だから断りわりづらいのかもしれない。でも私から言うのはくやしいし。 「あの、僕と正式にお付き合いしてくださいませんか?」 はい? 想像を越える一言にびっくりして固まってしまう。 「すみません、こんなおじさんですけど・・・。あのやっぱりイヤ、ですよね・・」 うわ、電話の向こうでもシュンとなてるのがわかるぐらい落ち込んだ声。 一寸待って、今付き合ってくれって言ったのよね? 念のため一ノ瀬さんに確認し、私は喜んで、と返事をしていた。 正式に(?)出会って一週間、私は思っていた以上に一ノ瀬さんに惹かれていたらしい。 |