07・シンデレラの憂鬱 |
シンデレラは結婚式で終了だけど、その後の生活については触れられていない。所詮童話だからと言われれば、それまでだけど。 この前あきちゃんとたわいもない愚痴の言い合いなんていうものをしてしまった。 ずっと女友達がいなかった私は、とても新鮮で、何事も内に溜め込みやすい自分は、こう言う方法で発散していくのは悪い事じゃないのかなって思えた。 だけど、根本的に、不安がなくなったわけじゃない。 私よりもっと頭のいい人、綺麗な人、大人な人。きっと響さんに似合う女性は山程いると思う。そういった不安は常に胸の中にあって、落ち込んだ時にひょっこりと表に現れてきてしまう。 その度に頭を振って、考えないように、考えないようにしている。 顔を枕に沈め、ここ最近起こった出来事を思い返してみる。 突然現れた過去。響さんの年なら色々あってあたりまえなのに、そう思えば思うほど、過去の事が気になって仕方がない。昔の彼女さんたちはきっと、頭がよかったんだろうな、なんて。本当に私は進歩がない。響さんと一緒にいようとしたら、これぐらいの雑音は笑顔でこなさないといけないのに。 レベルがあまりにも違いすぎる二人は結婚した後も上手にやっていけるんだろうか、幼い頃読んだ童話の二人を思い起こしながら考える。 でも、逃げ出すことだけは、しない。 「ちーちゃん、また悩み事?」 余り考えないようにしようとはしているのだけれど、やっぱり油断すると思考がそちらの方へと流れていっちゃうみたい。気がつくと、あきちゃん曰く、眉間に皺が寄っているらしい。あわてて、眉間を撫でながら笑顔を作ってみせる。 浮き足立ったキャンパスにわずかにへこんでいる私。こういうとき周りの華やかさがなんとなくつらく感じてしまう。 「ちーちゃんは予定あるの?」 「うーーん・・・。田舎にいくぐらい?」 真面目に答えると大袈裟に溜息をつかれてしまった。 「若い女の子が言うセリフじゃないって」 それは、そうなのかもしれないけれど、でも本当のことだし。 「一ノ瀬さんとはどっかいかないの?」 「行くって言うか・・・。なんていうか・・・」 一応お盆休みはあるらしい響さんは、田舎には帰る予定はないみたい。だから、そのうちのどこかで響さんのお家に泊る予定にはなっているんだけれど。 「お泊りの予定ありなわけね」 何も言わなくてもピタリと当てられてしまう。 「じゃあさ、他の時は暇なんでしょ、バイトもあんまり入れてないみたいだし」 「暇・・・だろうね、きっと。去年も結構暇してたし」 「去年は私がバイト三昧だったものねぇ」 車の免許を取る資金を作るために、あきちゃんはデパートのお中元のバイトをしていたりしたんだよね。だから、お休みは週に一回あるぐらいで、それこそ一生懸命働いていたし。 「今年は余裕あるからさ、ちーちゃんといっぱい遊ぶ!!」 ぎゅーっとほっぺを引っ張りながら、あきちゃんが嬉しそうに話す。 他の子たちも、それぞれ彼氏と遊ぶ予定をたてたりバイトの予定をたてたり忙しそうだ。 こう言うときに、同年代の学生の彼氏というのが羨ましいような気もしてくる。 「あれから何も言ってこない?」 唐突に聞かれたのは、たぶん清水さんのこと。響さんとモトカノを出会わせたのは彼女だと、響さんに聞いた。 「うん・・・。なにも」 私の連絡先を当然知らない彼女は、響さんを通してしか私と連絡を取る事はできない。逆を言えば、私も彼女と連絡を取る事ができないということになる。あれ以来、響さんの前で彼女の名前を口にすることすら憚られて、今彼女が何をしているか、といった情報は入ってこない。 「一体何がしたかったんだか」 「それが、わからないんだよねぇ」 結局、何がしたいかがわからないから今でも気になっているのかもしれない。 「一ノ瀬氏にほれてるってわけじゃなさそうだよね、その人」 それは、最初に考えたことだけど、どうにも腑に落ちない。響さんのことが好きで、あんなに回りくどい事をしていたのかとも思ったけれども、どう考えても、あれでは逆効果だし。本気で響さんと私の不似合いさ加減に頭に来ていた・・・、としてもあれほど我が事のように思えるというのも不思議だし。 「まあ、一ノ瀬さんはちーちゃんにベタぼれだからいいとして、また何かあったらすぐに私に言う事」 念押しをされて、帰り道の違う私はあきちゃんとわかれる。 ざわざわざわざわ、落ち着かない。 不釣合いな二人。 頭にこびりついたその言葉は、私を不安にさせる。 こんな私でいいのかと、くよくよ悩むのは、響さんにも失礼な事なのに、そう思うことをやめられなくて。 |