05・ユラユラ揺れる |
チクリと痛んだ胸は、今もそのまま。 デートのキャンセルと、突然の復活。天国と地獄のような一日は、結局響さんと会えた嬉しさに終わったけれど。それでも、モトカノと会った、という一言は、私のコンプレックスを刺激するには十分すぎるほどのものだった。 「誤解をされるといけませんから」 そうやって、本当に過去のことになっているであろう、彼女との突然の再会、たぶんそれが仕組まれていたものじゃないかという響さんの個人的な推測を話してくれた。 やましいさなんてカケラもないから話してくれる、そういうところも響さんの優しさの一つなのかもしれない。だから、私が疑ったり、嫌な思いをしちゃいけないんだって、頭ではわかっているのに。やっぱり心がついていってくれない。これは、響さんのせいじゃなくて、私のせい。少しはましになったと思ったウジウジした性格が、ちっとも治ってなかったっていうことなのかも。 響さんと同じ大学、と聞いただけで、どうしようもないほどその人に嫉妬を覚えてしまう。私は彼女より頭もよくないし、そういった環境にいた彼女ほど響さんのことを理解できないから。 翼さんとの会話で感じてしまった疎外感は、こんなところまで付きまとう。 私は響さんの仕事を理解しきれていない。 どうしてこんなに忙しいの?とか、どうしてそんなに大学にいなくちゃいけないの?とか、本当は聞いてみたいことがたくさんある。 物分りのいいフリをして、小さな小さな「なぜ?」が蓄積されていく。 それを言葉に出してみたら、嫌われてしまいそうで。 そんな風に思っている自分を嫌いになっていく。 「どーしたの?」 相変わらず些細なことで落ち込んでは、こうやってあきちゃんに心配を掛けてしまう。 だけど、あまりに低レベルな自分の悩み事を打ち明けられないでいる。 無理に笑ってみせる私にあきちゃんはますます心配そうな表情を見せる。 結局、強くなったと思っていた自分は、あの頃と一つも変わらないでいるのだと思い知らされる。 自信の無さの裏返し。自分が傷付きたくないから、色々理由をくっつけては、自分にはやっぱり無理だったのだと言い聞かせてしまう。 大学のレベルだとか職業だとか、響さんは一度も口にしたことすらないのに、私ばかり拘って勝手に落ち込んでしまう。嫌な癖だとは思うけど、性格はなかなか治ってくれない。 こんな風に自分を卑下することも、本当なら響さんに対しても失礼なことなのに。 ぼんやりとまとまりのつかない思考を頭から追いやる。 キャンパスでは夏休みが近いせいか、なんとなく皆浮き足立っている。 本来なら、私もあきちゃんと夏休みの打ち合わせをする予定だったのに、どんよりと落ち込んでいる私をあきちゃんがおろおろと見守ってくれている。 「ごめん・・・。また落ち込んでる」 正直に打ち明けたら、胸の中の塊が少しだけ溶けていった気がする。 「つーことは、また飲み?」 「や、それはちょっと」 ザルのあきちゃんに付き合っていると、次の日確実に起きられなくなる。 「じゃあ、おいしいもの?」 ニカっと太陽のように笑うあきちゃんにつられて私も笑う。 それに釣られて、心も軽くなっていく。 「予定決めちゃいたいし、今日は一緒にご飯にいくべし」 そう結論付けて、次の授業へと急ぐ。 一人で抱え込んで、勝手に沈んでいくのはやめよう。 私は響さんと歩いていきたい、そう思ったのだから。 |