こんな恋の始め方vol3 5.27.2004
3.初デート

「すみません、あまり若い女性が好む様なところは知らなくて」

一ノ瀬さんが申し訳なさそうに謝る。彼が連れてきてくれた場所は、所謂居酒屋である。 客層がかなり若く、学生さんが主に利用しそうな店構えである。

「いえ、私もこういうところの方が、肩がこらなくて好きですから」
あんまりすまなさそうな顔をするので思わず、フォローしてしまった。 確かに私としても高いお店よりも気が楽である。
もっとも今日の服装、ジーンズにシャツ、ではそんな店には入れないだろうけど。

「あの、でもここのお店、お魚はすごーくおいしいんですよ。井川さん魚お好きですか?」
「えっと、ごめんなさいあまり好きでは・・・。特にお刺身なんか苦手で」

馬鹿正直に答えたら、正面に座った彼がどんどんショボンとしていった。 うー、なんか罪悪感がムクムクと。どうしてこの人はこちらを弱気にさせるのだろう?

「すみません、あのう焼いてあるやつは大丈夫なので、焼き魚を食べませんか?」

おずおずと提案してみる。
お互い申し訳がってばかりいては注文もできない。私の言葉に気を取り直したのか、彼がいくつか注文をだした。

「いきなりなんですけど、連絡先とか教えてくださいませんか?」

あいかわらずためらいがちに、でも言うことは言う一ノ瀬さん。

「あ、いいですよー、ケータイでいいですか?」
「はい、携帯でもなんでも、あなたと連絡がとれればどの手段でもかまいません」

さらっと照れることいいますね。頬が赤くなるのがわかる。

「じゃあ、一ノ瀬さんのケータイも教えてください、できればメールも」
「すみません、僕、携帯もってなくて」

はい?本当に?携帯もってないの?今時かなり珍しい。私に隠したいとかじゃなくって?

「困らないんですか?持ってなくて」
「はぁ、持ってるほうが困るんですよ。いきなり連絡とれちゃうでしょ?アレ」

そりゃあそのための携帯だもの。びっくりする私に、一ノ瀬さん曰く。 自分は研究室か自宅にいる確率が高いので、どちらかにかけてくればいい。 それ以外にいる場合は、緊急事態でもどうせ間に合わないんだから、無駄だ。という事なのである。 わかるようなわからないような。つまりプライベートに介入されるのが嫌い?ということだろうか。
じゃあ私が連絡を取りたいとき(そんなときがあるかどうかはわからないけど)はどうすればいいの?

「はい、学校のメールか、自宅に電話していただければ、あ、名刺に電話番号書いてお渡ししますね」

そのどっちも普通敷居が高いと思うんですけど・・・。
まあ連絡することもないでしょうから。そう思いながら彼の名刺を受けとった。

意外にも話し上手な彼は、色々なことを話してくれた。学校のこと、研究のこと。 難しい話題も多かったけど、とてもわかりやすく説明してくれた。 頭がいい人って素人にもわかりやすく説明できるっていうけど、ホントなんだ。改めて正面に座っている人を見直した。

話しながらも次々と料理が運ばれてきて、それは私の苦手なお魚料理も含まれていたけれど、 そのどれもがおいしくて、私はとてもいい気分になっていた。

「このお魚とてもおいしいです。私今まであの匂いがイヤだったんですよ。でもこれは生臭くないし」
「それは新鮮だからですよ、新鮮なものは生臭くないんです」
そっかー。我が家は全員魚嫌いだからそこまで拘ってなかったんだ、きっと。
おいしいものと、新しい発見に自然と顔も綻ぶ。

「あ、今自然な笑顔でした」

はい?自然な笑顔?今まで不自然だったの?ばれてないと思ってたのに!

「やっぱり少し緊張してらしたみたいで、今やっとホントの本当に笑顔を見ることができました。 僕、その笑顔に惹かれたんですよ」

さらっとこんなことを言う。そういえば、私この人に告白されたんだっけ。
思い出して照れてしまう。一旦自覚してしまうと、まともに顔を合わすことができない。

「あ、肝心なことを聞くのを忘れていました。あの、下のお名前は?」

そういえばそうだった、なんて間抜な二人。

「自己紹介もまだでしたね、私。井川千春。○×女子大の2年生です」
「え?2年生。ということは・・・・」
「はい、19歳です」
「つまり・・・・。未成年、ということでしょうか?」
「そうなりますね、法律上は」
にっこり笑う私とは対照的に、こころなしか引きつった笑顔の一ノ瀬さんがみごとに固まっていた。


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