二人に言われたからだけじゃなく、もう一度城山さんと話したくて、彼女の姿を探す。
住所も電話番号も知らないから俺達の接点は学校しかない。
教室でおとなしく本を読んでいる城山さんを見つけ、彼女を呼ぶ。
当然、左京の威圧する視線を感じるけれど、なんとか耐える。
元気いっぱいって足取りで俺の方へ近づく彼女は、とても落ち込んでいるようには見えない。
「どうしたの?」
はじける笑顔で訊ねられる。
「えっと、ちょっといいかな」
「いいよーー」
のほほんと俺の後をついて来てくれる。こんなにも屈託のない彼女の家庭環境があれだとはとても想像できない。
あまりに定番だけど彼女と一緒に屋上へ行く。今日は雲ひとつない晴れ模様だから、きっとそっちで話すほうが気分が明るくなっていいはず。
彼女はフェンスに片手をかけ、地面を少し見下ろす。
「片岡君、どうしたの?」
地面を見つけたまま、訊ねる。
「えっと、今更なんだけど。友達になってくれないかな?」
改めて友達になってくれ、というのもなんと言うか照れる。
彼女はくるっと振り向いて、背中をフェンスに預ける。
「どういう意味?」
「や、意味っていうか…。友達になりたいから、じゃだめ?」
理由なんてない。ただ彼女の近くにいられればいい。
彼女は信じられないといった顔をして目を見張る。
「あ、と。ダメ、かな。こんなやつじゃ」
頭に手をやって照れている顔を誤魔化す。まともに告白するよりなんだか恥ずかしい。
いつも笑っている顔を見ていたいから、なんてやっぱり照れくさくて言えやしない。
彼女はポカンと口を開いて、まさしく呆気にとられていた。のほほんとした雰囲気を纏わせながらも非常に頭の回転の早い彼女には珍しい光景だ。
「えっと、友達?」
やっと脳が動き出したのか口を開く。
「そう、友達」
「私なんかと?」
「城山さんと」
「いいの?」
空中を凝視し、焦点が合っていない瞳を見つめる。そうしてもう一度深呼吸をしてはっきりと答える。
「城山咲良と友達になりたい」
青く晴れ上がった高い空、ひんやりとした秋風に自分自身の声が吸い込まれていく。
1-2度彼女は瞬きをしたかと思ったら、その大きな瞳から大粒の涙をこぼす。
ハラハラと真珠の様に零れ落ちる涙に、心臓を杭に打たれたかのような衝撃を受ける。
どうしていいかわからずに咄嗟に涙を指で受け止める。わずかに手が触れた瞬間彼女は弾けるように笑う。
そんな、予想外の反応を見せないでくれ。
心臓が暴れだす。
「ありがとう」
彼女はそう言って右手を差し出す。
照れながらも俺も右手を差し出す。
重なる手と手。
こうして俺と咲良はこれから一生を通じて付き合っていけるかもしれない“友人”という関係になれた。
自分の恋心も多少の下心も全てを昇華して彼女の純粋な友人になれるように。
彼女の隣に立っても恥ずかしくないように。
やることはまだまだある。
彼女の友人でいるために。
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