ダブルゲーム・発覚Vol.3(加筆:12.15.2006)
発覚・3

雨の日は憂鬱だ。
できることなら、このまま布団をかぶって眠ってしまいたい。
ベッドの上で半身を起こしながら窓を眺める。天気予報の予想通り、窓ガラスには小さな雨粒がいくつも打ち付けられている。

「さくら?」

ぐずぐずと起きようとしない私を心配してか、叔父さんが様子を見に来てくれた。
こんな日は、叔父さんが送り迎えをしてくれる事が多いから、これ以上ここにいて心配をかけるわけにはいかない。
鈍い手足を無理やり動かしながら返事をする。
片岡君は私よりも臼井さんを選んだ。
左京や右京ちゃんが私をガードしてくれているとはいえ、面白そうな話題を周囲がかわすことをやめるわけもなく、昨日臼井さんのところへ片岡君が遊びに行った、という噂話はあっという間に私の耳に入るところとなった。二人の間に何があったのかはわからないし、知りたくもない。
高望みなのはわかっていた。
本当の自分を伝えることもできないでいるのに、一方的な思いだけを押し付けて、わがままで幼稚な私が彼に好かれるわけがない。
だけど、どうして、と、思ってしまう自分もいて、初めての気持ちにどうしていいのかがわからない。
天罰、なのかもしれない。
フラッシュバックする記憶も、今のこの胸の痛みも。



余り幼児期の記憶がない私が、強烈に覚えている風景がある。
薔薇が咲き誇る季節、当時お気に入りだった熊のぬいぐるみを取り上げられ、泣いていた私。
それを与えてくれたその人を、私は大好きだったのを良く覚えている。
幾度となく城山の母から植え込まれた言葉で、自分が置かれていた立場というのを早くから自覚していたらしい私は、周囲に懐くことなく、適当に距離を置いて一人で遊んでいるような子供だったらしい。
そんな中でも、私のことをかわいそうに思ってなのか、こまめに面倒を見てくれる人も現れる。
もちろん左京や広さんがそうだったのだけれど、その人が与えてくれる柔らかな感触というものに特に執心していたことを覚えている。 いい匂いと、柔らかな胸の感触。
胸に抱いてくれる母親を知らない私は、そこに母性を求めていたのかもしれない。
例外的に懐いていたその人は、それでも私の扱いをめぐって城山の母に進言した瞬間、あっさりと首を切られてしまったそうだ。
最後に彼女が残してくれたぬいぐるみ。
泣いて泣いて、返事をしてくれないその熊を抱きしめて、だけどその熊すら母に捨てられて、一人ぼっちで庭に立ち竦んでいた。
それが、最初の雨の日の記憶だった。
それからよくない事が起こる度に、私の上には雨が降る。
一緒に遊んでいた友達を取り上げられた時、修学旅行にいけないまま屋敷に閉じ込められた時、そうして、母のアルバムから見つけた実母の写真を破られた日。
雨を見れば、その日のことを思い出して、ただ殴られて罵られた記憶だけが蘇る。



本当はもう、わかっている。私にできることは城山の母に言われたこと以外ないのだということが。

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