ダブルゲーム・ひまわりの君Vol.1(7.14.2004/改訂:12.09.2006)
ひまわりの君・1

 俺の人生終わったかも。
そういえば今年のおみくじは大凶だった。初詣のおみくじでそんなのあり得ないって周り中から言われたのを思い出す。 今朝の占いでも最下位だったし。
天を仰いで見てもここは教室だから何が見えるわけでもなく。俺はただ途方に暮れていた。

 数分前、この学校で一二を争うほどの有名人が訪ねてきた。城山咲良(シロヤマサクラ)同じ高3の女生徒だ。 こいつの何が有名って、5番から下へ下がったことがないという成績に、それに似合わない運動神経のよさ。 おまけにそいつを鼻にかけない気さくな性格。下級生からは憧れの対象となり、同級生からも慕われている。 そんな才女が平凡を絵に描いたような俺に何の用事があるっていうんだ?
疑問に思いながらも、彼女の元へいくと開口一番

「私あなたのことを気に入ってるの、付き合って」

ときた。

「はあ?」

あまりのことに間抜な声をあげた俺に向かって

「ま、今は私のことを知ってもらっただけでいいから」

と言いながら去っていってしまった。
ぽかんと口を開けフリーズすること数分間。今度はまた別の有名人がやってきた。
いや、あいつがきた時点である程度予想はしていたが、こうも見事に裏切らないでやってくるとは。

「片岡哲也というのは君か?」

 そう不躾に問い掛けてきたのは高山左京。同学年の男だ。今時のメタルフレームの眼鏡を掛け、 気難しい顔をした男子生徒は城山の上を行く秀才な上に180はあろうかという長身とちょっと神経質そうだけど 綺麗な顔立ちのおかげで女生徒からの憧れの的、らしい。

「うわ、ほんとに平凡だ」

 事実だけど他人に言われると腹の立つ言葉をさらっと言ってのける男は高山右京。先ほどの左京の弟だ。 確か2学年下の新入生のはず。兄とは違って人懐っこい笑顔と犬のような 明るい気質が周囲のハートを鷲づかみ、という噂の男。

「ええ?咲良ちゃんって理想低すぎ!!」

 これまた輪を掛けてひどいことを言ってしまえる彼女は畑野京香。確か一コ下の和風美人。 ひそかにあこがれていたのに、なんだよ、その口の悪さは!!
固まったままの俺に勝手なことを銘銘言い募って立ち去ってしまった。
取り残された俺はただ呆然と立ち尽くすのみ。しばらくして友人が肩を叩きながら

「ご愁傷様」

といって慰めてくれた。

 やっぱり俺の人生あの時点で終わっていたのかもしれない。



 学校一の有名人に告白されたらしい俺は、その日から一躍時の人になってしまった。 下級生も同級生も見学に来るわ来るわ。しまいには先生方までなにやら噂をしている始末。 生まれてこの方誰かに注目されるという経験がない俺は非常に強いストレスを感じてしまう。 学芸会でも主人公の後ろに立っている木だの、その他大勢のセリフのない村人だのばかりやっていたので、 自分が主役になるような出来事に慣れていない。

「何で俺が」

友人の輪に入って愚痴をこぼす。

「いや、それは僕達も聞きたいって」
「うん、城山女史には左京がいるのにね」
「いい男に飽きたんじゃない?」

おい、勝手なことを喋ってるんじゃない。恨めしそうに連中を睨むけれども

「ご指名じゃん」
「よかったねー、彼女いない歴からピリオドうてるし」
「悪いことは言わんから、彼女の言うとおりにするんだ」

   なんてさらに勝手なことを言い募っている。
誰も代わろうか?だなんて言ってくれない。他人事だからといっておもしろがって。
いや、実際俺も他人事なら楽しいネタなんだけど。

 優秀な彼女は、昨年生徒会長にまでなって活躍していた。もちろん後からきた左京と畑野さんもサポートしていたが。 彼女の実行力と決断力、自然と人が集まってくる求心力。それらは確かにすばらしいものだと俺自身も感心しているけれど、 さて、自分の彼女にどうか、となると二の足を踏んでしまう。 実際彼女はややかわいいに分類される顔立ちだけど、彼女に声を掛けたという話は全く聞かない。この学校の男が情けないのか左京が怖いのかわからないが。

 そんな俺の悩みの種がご機嫌でやってきた、左京を引き連れて。

「やっほー、片岡君一緒に帰ろう」

いやという暇もないほど同級生達に背中を押され、つまり売られたんだ!城山嬢と(左京と)一緒に帰ることになってしまった。

「あ、私城山咲良18歳ね」
「いや、知ってるから」
「嬉しいーー、知っててくれたんだ」
「…有名人って自覚ある?」
「生徒会長だったから?」

 や、それだけじゃないんですけど。朗らかで、思いのほかボケている彼女と一緒に帰る。
後ろにはぴったりと左京がくっついているけれど、苦痛じゃない。
思った以上に気さくな子なんだな。なんて役職と成績で型にはめていた自分に少しだけ申し訳なく思う。

「あれって、本気?」
「本気って?」
「だから、付き合うとかっていうの」
「ああ、あれ、もちろん本気」

 彼女の眼鏡越しにでもはっきりとわかるほど影のない笑顔。そんな笑顔を向けることのできるんだ、 と自分の偏見がいかに根強いものかを再確認してしまった。

「悪いんだけど、俺好きな人いるから」

 そう、なんか相手のペースに飲まれてしまったけど、俺にはちゃんと好きな人がいる。アプローチもしてないし、 相手にされるって保証は全くないけど。
一瞬びっくりした顔をして、でもすぐにさっきの笑顔に戻り頷く。

「うん、わかった。でも付き合ってはないんだよね?」

念を押してくる。心なしか眼鏡がキラーンって光ってないか?不承不承うなづくと

「じゃ、私もあきらめないし。覚悟しといてね」

 そう言って最初にしたように立ち去ってしまった、左京と共に。
おい、そいつとそんなに一緒にいるんならそいつと付き合え、じゃなくって、 あきらめない?昨年の文化祭が成功したのは彼女の実行力と粘り強い先生方への説得工作だったことを思い出し、愕然とした。

 俺このまま流されるのか?


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