「何笑ってんだ?」
洗濯物を畳みながら一人笑いをしている彼女を見咎める。
「ごめんごめん、去年の事を思い出してさ・・」
「また、嫌なことを」
色々あって、結婚するまで遠回りした道のりは思い出しても気が沈む。
「勢いで私のうちに行ったはいいけど、まさか父親に返り討ちにあうとはね」
突然訊ねていった俺の「娘さんと結婚させてください」という言葉に拳で答えた祥子の親父さんは、姿だけみると、とてもじゃないけどそんなことをする人には見えない。
「口が切れたりして、びっくりしちゃった」
「いいパンチだったぞ・・・・ほんとに」
「父親の愛情をいやって言うほど感じたわよ、あれには」
尚もくすくす笑う彼女は本当に幸せそうだ。俺の贔屓目じゃなくて。
「でも、最終的には折れてくれた」
週末になるとすっ飛んでいって謝り倒した日々は無駄ではなかった。しばらくすると義母さんに諭されたのか、渋々といった風情でやっと結婚を許してもらえた。
俺のした事を考えたら、それぐらいですんだのは返ってよかったのかもしれない。
「おまけに、生まれたのは娘だし」
祥子に良く似た娘は世界一かわいくて、今になって本当に親父さんの気持ちが痛いほどよくわかる。
「女たらしとか、ひどいめにあわせていた人ほど娘を持つっていうけどさ」
「娘は誰にもやらないから」
「ばかね、いつかはあなたみたいな人に掻っ攫われちゃうんだから」
ポンポンと畳んだタオルの上を軽く叩く。
自分の所業を思い出して複雑な気分になる。
「大丈夫よ、私は今幸せだから」
洗濯物を抱え、立ち上がる祥子の笑顔が眩しくて。
幸せに酔う。
願わくばこの幸せがずっと続く事を祈って。
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-あとがき-
長い連載に最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。やっとここに完結することができました。
元々、甘めの連載(seasonsと恋シリーズ)の合間に自分自身の息抜き的に書いてきたシリーズですが、
こんなにも続くとは思っていませんでした。主役の男は普通にいやな男だし(笑)、祥子は好きですが、こんなやつと別れちゃえ!と
思ったりもして・・・。
パンドラと同じシーンを断片的に綴っていくお話にするつもりだったのですが、予想外に祥子が動くキャラクター
だったため、このような結果となりました。あまり明るいとはいえないお話ですが、思った以上に読んでくださる方が
いてくださり、嬉しくて舞い上がるとともに、最終話をおまたして申し訳なく思っています。
これでいいのかと何度も悩みつつ、戻りつつ書いた最終話ですが、拙いながらも愛着のあるお話となりました。
規格外恋愛模様は完結しましたが、もちろんAsymmetryはまだまだ続ける予定ですので、よろしかったらまたおいでくださいませ。
これからもAsymmetryをよろしくお願いします。
神崎みこ
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