22・ふたり


 このままずっと一緒にいられると思っていた。親兄弟よりも長く過ごした時間がそう錯覚させたのかもしれない。彼にとって私は偶然が重なって仲良くなったに過ぎない関係だというのに、彼にとっての一番の理解者が私であるなんて自惚れていた。
あやふやな関係は、他の誰かの侵入であっさり消えてしまうほどに儚くて、今までなにも二人の間に築けていなかった私の愚かさにあきれ果てる。





「あれ?言ってなかったっけ?先週からつきあってるんだ」

クラスメートからカレに彼女ができたらしいと聞きつけた私は、それを一笑に付した。だって、それほど重要な出来事をこの私が聞いていないなんてあり得ないから。それでも、これは確かな情報だからと断固として譲らない彼女を宥めながら、頭のどこかでやっぱり彼のことをわかっていないといい気になっていた。だから、彼からあっさりともたらされたその言葉に一瞬絶句してしまった。あまりの衝撃に息をするのも忘れていた私の背中を思い切り叩く。

「言っとくけどお袋には内緒だからな、まだ」

邪気のない笑顔で、そんなことを言い放つ。私は大袈裟に咳き込んで見せて、零れ落ちそうな涙の言い訳にする。

「あんたみたいながさつな人とよく付き合ってくれるわよね」

どうして?とかどんな人?とか色々言いたい事は山のようにあるはずなのに、今まで気の使わない女友達のポジションに甘んじていた私は、そのキャラクター通りのセリフを紡いでいく。

「おまえほどじゃねーよ」

照れているのか少し頬を染めて、子供のように拗ねた顔をしてみせる。ずっと見てきたはずなのに、見たこともない表情をすることにさらに心臓がえぐられるような痛みを感じる。

「そっか・・・、あんたもとうとう彼女がねぇ・・・」
「なに年よりじみたセリフ言ってんだよ」
「だって、ついこの間までおねしょして、庭先で大泣きしていたあんたがって思うとさ」

過去の笑い話を次々と語りそうな私の口を慌てて塞ぐ。
伝わってくる彼の匂いと体温。慣れ親しんできたその腕も、私だけのものではないのだと気がつかされる。

「まあ、いいや、当分家族には黙っておいてあげるからさ・・・、って言いたいことわかるわよね」

ニッコリと、できるだけいつものように笑う。彼はオーバーに肩をすくませながら溜息までついてくれる。

「はいはい、いつもの店のチーズケーキですね、お嬢様」
「わかればよろしい」

腰に手をあてながら、彼に合わせて頷く。

「あー、でも週末は予定があるからちょっといつになるかわかんねーぞ」
「ふーん、早速デートってやつですか。あっついわねぇ」

右手で顔を仰いでみせる。

「まあ、そうからかうなって」

くしゃくしゃと私の髪をかき混ぜる。
もうこれ以上側にいてはいけない。聞こえてきたのは悲鳴。

「まあいいや、これで私もオモリから開放されることだし。とっとと彼氏でも見つけようっと」

今までみたことがないってぐらいさわやかな顔で彼が笑う。
私に特定の誰かができることに少しの痛みも感じていない。
何を期待して側にいたのだろう、何を期待して今の言葉を吐いたんだろう。
悲鳴が大きくなる前に、彼の近くから離れなければいけない。

「じゃあね」

ヒラヒラと片手を振りながら、彼の側から退場する。
引き止めるわけでもない彼は軽く「またな」と返事をする。
今までみたいな関係はもう終わり。
私は彼の何になりたかったのかを気がついてしまったのだから。
幼馴染、クラスメート、ご近所さん。
そんなものになりたかったわけじゃない。
偶然のなかから私と言う存在を選び取って必然にして欲しかっただけだ。


もうふたりではいられない。
さっきから聞こえる悲鳴は絶え間なく私の心に届いたまま、私はそれをとめる術すら知らない。

08.08.2005
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