「石川君ちょっと」
上司に呼ばれて別室へと連れて行かれる。
これはちょっと・・・リストラ?
なんて暗い未来を覚悟しながらおとなしく座っていると、突然意外なことを切り出された。
残業をして電車に乗って家へ帰る。毎日同じ日々が続くはずだった。
人生意外なところに落とし穴があるものね。
自嘲気味に笑いながら、電車の外の風景を見る。
これを見るのもあと少しかもしれない。私が覚悟さえすれば。
ここに未練があるわけじゃない。大学進学とともにこちらへやってきてそのまま住み着いただけだから。
友達もいるけれど、でもやっぱり地元が懐かしいのは仕方がないことで。
そう、地元に戻れるかもしれない。いつかは帰る、そう親に言っていながらここまでいついてしまった。
こんなに長居するはずじゃなかったのに。
その原因の一端が私の部屋でなぜだか寛いでいる。
「なんであんたがここにいるのよ」
「暇だから?」
会いたかったからとか言ったらどうなの?減るもんじゃなし。
まあ、言わないのはお互い様か・・・。
自己中男にご飯を作るべくキッチンに立つ。
夜も遅いし、適当にパスタでもいいか、そう思いつつお鍋に湯を沸かす。
「ねえ、明彦。私がいなくなったらどうする?」
「んー。別に」
はは、期待していたわけじゃないけどね、明彦らしい答え。
目の端に涙が出てくるのは気のせいだ。
ちょっと眠たくなっただけ。
曖昧な関係にしていたのは私のせいだから、最後はやっぱり私が責任を持つよ。
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