18・砂糖菓子


 ふわふわやわらかそうな髪の毛にくるくるのお目目、その容姿にぴったり似合うエプロンドレス。その女の子は本当に絵に描いたようなかわいらしい姿かたちをしていたんだ。本当に。
やわらかな髪が綿菓子みたいで、手にとって食べようとしていたのはいつだったのか。久しぶりに見た昔の夢がなぜだかひどく哀しくさせる。なんて、センチメンタルな気分をまるごと破壊してくれたのは、目の前にコイツが現れたからだ。

「なんか用か?」
「いや・・・」

見えない角度で溜息をつく。隣に立つすらりとした長身の人物は同じ大学の同じ学部に所属する同級生である。ついでにいうと小学校、中学校、高校と常に同じ所へ通っていた。つまりアレだ、所謂おさななじみと言うやつだ。

「へんなやつだな、あいかわらず」

変なのはお前だとつっこんだら100倍返しになるんだろうな。
割と整った顔、均整のとれた体、すっきりとジーンズとシャツといったシンプルな衣服を着こなすだけのセンス。どれをとっても申し分がない、かなりいい男の部類に入ると思われる。

「あ、悪いトイレよってく」

そう言いながら荷物をあっという間に全部俺に預け、さっさとトイレへと消えてしまった。つまるところ、次の教室まで自分の荷物も一緒に運んでおけという無言の命令なのだ。
歩く姿も格好いいよな、あいつって。そんなくだらないことを後姿を見ながら考える。
アイツにラブレターを渡してくださいなんて、どれだけ俺が橋渡しの役目をしたか!
だけどな、女の子達いいかげん目を覚ましてくれ。アイツが今向ったのは婦人用トイレだ。つまるところ、あいつは正真正銘生物学上 どれだけ胸がなくても立派に女だということだ。
いや、実のところ別にあいつの性別がどっちだって関係ないはず、ただの友人だし。
だったら、何を拘っているのかというと、例のふわふわの女の子が俺の初恋の人で、すくすく成長したらどこをどう間違えたのか、あいつになってしまったという事実に対してだ。

いらない事に幼馴染なんてものをやっているから、あいつの成長過程をつぶさに、もう目をそらすことも出来ずに目の当たりにしてしまった。というのがそもそもの不幸。
ずんずん伸びる身長はいつのまにか俺を追い越し、中学時代には見下ろされる始末。
高校に入ってからは何とか遅い成長期で巻き返しを図るも、その身長差はわずかに3cm。あいつがヒールを履いたら終わってしまう。そんなもの履くようなやつじゃないからいいんだけど。
それから洋服、元々はヒラヒラぴらぴらのお人形みたいな衣装を身に纏っていたのに、いつの頃からか俺とあまり変わらない格好をしていた。どうやら母親の着せ替え願望から脱出したせいらしい、自分の妹を犠牲にして。もちろん後を追いかけるようにして妹も姉と同じような成長っぷりをみせたのだから、あの姉妹はでかくなるDNAを受け継いでいるに違いない。ちなみにあいつの兄ちゃんもかなりでかい、そしてごつい。



「悪いな」

先に教室で席を陣取っていた俺の隣にちゃっかりと座り込む。お約束で、彼女の荷物もきちんと持ってきているあたり、どうしてだか俺は彼女に弱いらしい。
教授がやってきて、授業が開始される。
銀色の華奢なシャーペンを取り出し、ルーズリーフに黒板の文字を書き写している。
こうやって指先だけをみたら、性別も間違えそうもないんだけどな。
昨日見た夢のせいか、どうにもこうにも彼女のことが気になって仕方がない。
なんでだろう?
頬杖をつきながらぼんやりと黒板の方へ視線を向きなおす。
まるで集中していない授業はなぜだかあっという間に終了し、俺はせっかく出席したというのに真っ白なノートを残してしまった。
これを隣の人物に写させてもらおうとしたら、どれだけおごらねばならないのか恐ろしい。



「あの・・・」

眼鏡をかけた同級生が彼女に声をかけた。もちろん俺にとっても同級生なんだが。

「なに?」
「返事を聞かせてもらいたくて」

俺よりもわずかに高い身長に俺とは正反対の整った容姿をもつ同級生は、自信たっぷりにこう切り出した。
何に対する返事なのかは彼女から聞いて知っている。
のけぞるほど驚いた彼の提案。

「ここでか?」
「ああ、ここでかまわないけど」

ニヤリと笑った男は普通の女性なら一撃でマイってしまうんだろうな・・・。普通の女性ならばだけど。

「じゃあ、遠慮なく」

いい返事が帰ってくるとばかり思っている彼はなおも余裕の表情で待ち構えている。

「悪いけど、あんたに興味ないから」
「・・・・・・は?」
「聞こえない?もっと大きい声で言おうか?あんたに興味ないから!!」

入り口付近に溜まっていた学生がこちらを振り返るほどの大声で彼女が叫ぶ。
耳にした言葉がようやく大脳にまで届いたのか、彼が瞬時にして羞恥に顔を赤くする。

「まあ、そういうことだから」

軽く片手をヒラヒラさせて、俺に撤退を促す。
つまるところ、彼はこの彼女に対してなぜだか告白めいたものをしたというのだ。よほど自分に自信があるらしい、や、あるからこそ告白してきたんだろうけれど。
頼むからそんな視線をこちらへ投げかけてくれないでくれ、男前の同級生。
こいつが普通じゃない事ぐらい見れば一目瞭然だろう。
そもそも、見た目が男っぽいばかりでなく、中身も十分男前なんだからさ。あんたみたいにそこらあたりの女の子をとっかえひっかえしているような男、相手にするわけないだろうが。
と、そこまで考えていたら非常にすっきりしている自分に気がついた。
過去を夢にみたせいでモヤモヤしていたのかと思ったけど、ひょっとしてひょっとしたら、俺はこのことを気にしていたというのか?
彼女は歯牙にも掛けないとそう思っていたにも関わらずだ。

「ごはん。学食行こう!」

先程のやりとりなどまるで覚えていないかのように、腹減ったコールを繰り返す。
サクサク歩く彼女に俺も晴れやかな気分でくっついていく。





そういえば外はいい天気だったよな、なんて途端にそんなのんきな事を考えながらキャンパスを歩いていたら、突然彼女が立ち止まる。

「なんだ?急に止まって」
「いや・・・」

不自然に視線を逸らした彼女は、こころなしか顔がひきつっている。
彼女が見ないようにしたポイントまでぐいっと顔を持っていったら、そこにはかわいい、とはお世辞にもいえない大きなかえるが鎮座していた。
この大学は陸の孤島と呼ばれるほど僻地に建設されている。周りは見事に畑か田んぼか鶏舎のみ。工学部やら理学部をかかえる新設校としてはこんな土地にしか建てられない事情というのは痛いほどよくわかる、よくわかるけれども、風光明媚といえば聞こえはいいけれど、まあようするにド田舎のここでは自然が溢れかえっている。
トンボは大挙として押し寄せるし、モズなんか大学をねぐらにしてやがる。
たんぽぽの茎は不自然なほど伸び、一時期やばい薬品を地面に埋めたんじゃないかと噂が立つほどだった。
そんなこんなでこうやってかえるに出会う事はそうめずらしいことではない。
なのに彼女は視線をそらし、不自然なほど距離を開けそこを通り過ぎようとしている。

なんだ、昔と同じだ。

ストンとふわふわの女の子が目の前に下りてくる。
綿菓子みたいな彼女は小さなアマガエルが恐いと言っては泣いていたっけ。
あの頃のふわふわの髪の毛はもうなく、短く切りそろえられた顎のあたりで無造作に散らされている。
だけど、あの時見た綿菓子みたいに彼女の髪が甘くておいしいかもしれない。
そんな気になって思わず手を伸ばした。

そうだ、俺はダイブ前から彼女の事が好きだったんだ。
どうしてそんな単純な事に気がつかなかったんだ?
行き成り髪を触られた彼女は怪訝そうにこちらを振り返る。
少年らしいシャープな横顔にやっぱり俺はこいつのことが好きなのだと確信した。

思わず好きだと言いそうになり慌ててその言葉を飲み込む。
変わりに、かるくおでこをはじく。

「痛いなぁ・・・なにすんだよ」
「まあまあ、それより今日の昼はおごるからさ」
「・・・・・・キモチワルイなぁ。なんだよ?」
「いやいやいやいや、気にするな、早くしないとお前の好きな定食がなくなっちまうぞ!」

その言葉に彼女は途端に急ぎ足になる。
まあ、急がなくても大丈夫か。たぶん時間はまだある。
とりあえず、異性としてい意識してもらうまでがんばらないと。
道のりは遠そうだけど、千里の道も一歩から、か。

ふわふわの彼女がこちらを見て笑ったような気がした。

10.21.2005
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