Summer days

一つ前に戻る

(注:この物語の高木君は28歳の設定です)by、石礫


路地裏…二人の男がそこにいた

「彼女をオレから奪ったんだ…それだけで万死に値する。」
一人の男がそう言いながら、すっと、前に差し出した手には、拳銃が握られていた。
「なっ・・・」



乾いた音が数度、路地に響く


「…楓」
人を殺害した彼は、そう呟いた




 …一つの夢…



うだるような暑い夏の日
一人の少女がオレに向かって微笑んでいた。

 劈くような音が響く…道に転がる車のライトの破片…怒号…そして、血…。

その中で一人の少年が泣いていた。
「どうして…どうして、こんな目に合わせられないといけないんだよ。」
オレは彼をよく知っていた。
「…瑞樹?どうした。」

振り向いた少年が…オレの名を呼ぶ…。
「ワタル…」

彼は血まみれのあの少女を抱えていた…。


「楓っ!?・・・・・・!!」




ある少女の名前を呟いた瞬間、気が付くと、オレは自分の部屋に居た。それは、古い記憶をなぞる夢…忘れえぬ記憶。
「あの頃の夢か……瑞樹…。…あいつ…今ごろ、どうしているかな?」


RRR・・・・・


彼の携帯電話が鳴った…。
「はい。高木。」
事件が起きたので来いという…連絡だった。



…うだるような暑い夏の記憶は…。忘れられない 忘れたい…
相反した苦しみを思い起こす。オレ達の悲しみを思い起こす。


そして、憧れを思い起こす。





「何、ボーとしてるんですか?」
千葉に小突かれて、高木は自分がボーとしていた事に気が付いた・・・
「え、あ・・・」
「なんか良い夢でも見てたんですか?」
「…悪い夢ならな。」
「え?」




道端に放置されていた、射殺された被害者は、夏の暑さで既に腐敗臭を漂わせていた…。

「被害者は林克男さん31歳。元風俗店従業員。死因は体に数発打ちこまれた銃弾によるものと見られます。」
千葉が、説明している。

「………。」遺体を前に考えこんでいる高木。
「ん、どうしたんだ高木君?」そんな高木の姿に気がつき目暮警部が尋ねる。
「…いや、あのですね。この被害者の名前と顔を前にどこかで…見た事が?」

「……この被害者林克男さんには「前」があるから、リストでみたんじゃないですか…」
千葉が高木にそう言う。
「前?・・・・もしかして、傷害?」
「そうです。10年以上前に傷害事件を起こし3年くらってるみたいですね。」




高木の記憶の中の一人の少女の姿がよみがえる。



「その11年前の事件の被害者って……有田楓という名前じゃなかった?」
「え?…そういや、そんな名前、書いてあったかな?…ん?高木さん、なんで、そんな事知ってるんですか?」
「いや…ちょっとね。」その後の言葉を濁す高木。




…幼なじみ…有田楓。楓の弟で…オレの親友…有田瑞樹…。
全てを変えた。あの事件…オレが刑事になろうと決めた頃にはオレの目の前からいなくなっていたオレの幼なじみ達。
…楓を植物状態にした男……それが、この事件の被害者。


お願いだから…容疑者としてあいつに会う事がないように…願いたい。




「高木君、どうしたのボーっとしちゃって?」
「え、あ、佐藤さん・・・なんでもないですよ」
「そう言えば、高木君がさっきの事件の被害者を見てから変だって、千葉君が心配してたわよ。」
「…!…いや、そんな事、」
「その被害者の前を気にしてたみたいだって話しだけど何かある訳?」
「…いや、何も無いですよ。」
「本当?」


「……ええ…。」



「事件で使用された銃は、他の事件で使用されれはいません。銃は…自動小銃らしいって事はわかりましたが…」
「銃のルートはまだつかめないのか!」



「高木さん、僕等は被害者にうらみ持ちそうな人の聞き込みに行けって。」
「わかった。」


どこか、高木の見せる表情に冴えが無いと美和子は一瞬思った…彼女は、射殺事件の捜査には加わっていない。





あの男を殺した男。


彼の心の中にいる少女の顔は泣き顔で…
「…なんで泣き顔なんだ。お前はオレがした事を許さないッて言うのか…楓……でも………あいつなら…オレのやった事理解してくれるさ…きっと」
彼には、すでに覚悟しているものがあった

彼の住まいの呼び鈴が鳴る。
「…どなたですか?」





 …記憶の断片…


手術室のランプがついている。救急車で運ばれた楓の手術が行われている。

「おじさん達すぐにこっち向かうって…。」
「……連絡してくれたんだな。…なぁワタル、楓死なないよな。」
「ああ、死んでたまるかよ!あいつがこんなんで死ぬようなタマか。」
「だよな……。」

一人の中年の男性が、そこにやって来る。

「刑事さん…ですか?」


「…目撃したと言う、男の特徴を教えてくれないかな?」
「なっ、何言ってるんだよ!瑞樹が犯人の顔見たからって、こんな時に聞くなんてどうかしてる!!」
「…こんな時だから…聞くんだ…彼女の為にも、一刻も早く犯人を確保しなければならない!」

刑事としての仕事をやるだけだ…。

同情しても…辛いと思っても…悲しいと思っても…刑事である以上…刑事でなければならない。
進路を決めかねていたオレに、一つの選択肢をくれたのはあの人だった。そして選んだのは…その選択。




 そこは、高級そうなマンションだった。
「ここです、被害者が最近まで勤めていた店の経営者で…被害者が起こした古い事件の関係者…有田瑞樹の住まいは…」
「・・・行くぞ。」

彼の住まいの呼び鈴を鳴らす。
「どなたですか?」そこから声がした。



「で、警察がオレに何の用ですか?」
チェーンロックをかけたまま戸を空けるそこの住人。


そこから、出てきた人物は、高木が知っている人物とは別人の様に、一瞬、見えたが…、でも、確かに、その人であった。高木は、戸惑いの表情を浮べる。

高木は戸の隙間に手を差し入れ戸をつかむ。
「昨晩、都内で起きました事件について、ちょっとお話をお聞かせ願えないかと…、」と、高木は自分の警察手帳をその男に見せる。

「……え?…高木…ワタル…?…え?まさか…?」


「……久しぶりだな。瑞樹。」
「ワタル!?」

「え!?」千葉が高木の言葉に驚いた・・・。



最初に、警察に来てもらえませんかとお伺いを立てるが、行く気はないと断られる。
「林克男さん…知ってますよね。あなたの店の元従業員で、…11年前のあの事件の加害者です。その彼が、昨晩、遺体で発見されたました。で、よろしければ、あなたの昨日のアリバイをお教えいただけませんか?」


「ふーん…仕事だと知り合いにも敬語って訳か…仕事に出てた。オレのアリバイは従業員が証明してくれるんじゃねーのか?しかし、ありがたいぜ!あいつを殺してくれた奴に感謝したい所だ!!」

高木は表情を少し曇らせる。
「………そうですか、有り難うございます…。いずれ、もっと詳しくお話しをお聞きする事があるかもしれませんので…」

そう言ってから少し間ができる。
「?高木さん。」
「なあ、…千葉…ちょっと待ててくんない。…瑞樹、お前に聞きたい事あるんだ。」
「なんだ?」

高木は、吐き出す様にやっと言葉を発す…。
「………か、…楓は、どうなった?」

瑞樹は”楓”の名前を聞いた瞬間、表情を歪める。そして、悲しげな表情をした。
「六年前に……結局、意識戻らなかったよ。」
「そっか。結局あのままだったのか。」
「お前が刑事になってるとはな…。」
「…一つの選択肢だっただけの事だ。」
「…………そうか。所で、ワタル、お前ずいぶん変わったな。雰囲気がちょっと違っててすぐにわからなかったよ。」
「…かもな、でも、お前ほどじゃない。」




「高木さん・・・さっきの男と知り合いだったんですか。それに、ガイシャが起こした事件の事も詳しいみたいだし…。」
「………同級生さ…。それに、あの事件は学校で有名だったしな…ただ、知ってるだけの話だ。」

ふと、彼の部屋あたりを見上げる。



…瑞樹…もし、今でも、憎しみが消えてないのなら…お前は…あの男を殺したのか?オレはお前の犯行とは思いたくない…思いたくは無いけど…。


窓辺に立ち瑞樹は外を覗いている。
「ワタル……お前もオレを許してはくれないのか?」


「ここですね。有田さんが経営する風俗店「メープル」があるビルって、」

「メープル?…………犯行現場から約10kmか……ところで、ずいぶん可愛らしい名前だな。…ここ、」
「ホットケーキにつけるメープルシロップの事ですかね。メープルシロップって楓の樹液から出来てるんですよ。」
「か、楓…の樹液…?…そうなの・・・”楓”のねぇ。」

ビルは5階建てで、店は3階〜5階にある。1階、2階はテナントが出ていて居なかった。立体駐車場が隣にある。



「いらっしゃいませ。ここはイイ娘、そろってますよ。」
「あの、そうじゃなくって…私達は警察の者なんですが…昨日、亡くなられたここの元従業員だった。林さん事でお聞きしたいことが…」
「は?」

店長「あいつ、やなヤツだったよ。店の女の子に手を付けようとしクビになったんだ。え?オーナーですか?あの日はオーナーは居たけど?」

「あいつは、全く、ひどいヤツだよ。…オーナー?オーナーは従業員達にとっても優しい人で…オレが来た時、オーナーの車は駐車場に止まってたよ。」
「あ、僕はその人の後に入ったから、よくは…え?オーナーは居たと思うんですが…1時間も見てないって事もなかったし…。」

被害者の林克男の評判はすこぶる悪い。オーナーである有田瑞樹は逆にすごく評判が良い。

「あの男は他の娘達にも評判悪かったわね。オーナーは超が付くくらい素敵な人よぉ。あ、刑事さぁん、プライベートで来る時は、私を指名してねぇvvサービスしちゃうわよvv」

 この店は……そう言う業種の店なので、そんな発言でるのは、よくありそうなものだが、思わず苦笑の二人。



「ところで、オーナーは来られてますか?」
「いいえ……さっき電話で、午後から来るそうですが…」
「あの…建物の中、見る事は出来ますか?」
「良いですよ。オーナーが、もし、刑事が来たら、調べさせても良いって言ってましたから…」

奥にある従業員の控え室を抜けるとエレベータと少し先に階段と非常口がある。昨日、容疑者の彼がいたのは5階の事務所である。



5階。彼のいたと言う事務所の傍にあるのは…。
「非常口。」
「どうかしました高木さん?」
「…ここに非常口があるんだけど…ん、非常口の鍵…開いてるな。」
二人が戸を開け外を覗くと螺旋階段から裏通りの閑散とした道が見える。



「メープル」のあるビルから…事件現場に向かいながら聞き込みをする二人。浮びあがってくるものは…

「そーだな。…昨日の夜の変な出来事って言えば、…死体があったって場所から、あっちに走り去ってく小さなバイクなら見かけたよーな。」
「小さなバイク?」
「なんて言うのかな…あれって確か、折り畳み出きる種類のバイクだったはずだよ。」
「で、そのバイクのナンバーは?見られました?」
「いや、ナンバーは見なかったな。」

走り去っていくのバイクの目撃証言。しかし、それが事件に繋がるかどうかは調べて見ないとわからない…。

「しかし、今日も暑いなァ・・・」
「なんか冷たい物とか飲みたくなりますよね。お、ソフトクリーム売ってますよ。ほらあそこ…高木さん、食べましょうよぉ。」
千葉の指差した先には、ワゴン車のソフトクリーム屋があった。
「うーん、そうすっか。」


ソフトクリームの種類を注文していた高木は、近くの木陰で休んでいる少女が居るのに気が付く。
その女の子の年の頃は高校生ぐらいだった。そして、女の子は、どこか幼なじみの少女に似た雰囲気を持っていた。
「……!」思わず、高木はその女の子に駆け寄った。
「高木さん?どうしたんですか?」

「あの、君!昨日の夜、ここら辺で小さなバイクを見かけませんでした?」
「え?」

「カラオケ行った帰りに…ここら辺でそんなバイクに轢かれそうになって・・・その人すぐ降りてきて謝ってくれたわよ。その人、あまりにもカッコイイ人でぇ」
え!!っと二人は驚く…
「・・・・それって、こんな人でしたか?」
と彼女に瑞樹の写真を見せる。
「あ、この人です!!」
「間違いないですか?」
「その前に、こんなカッコイイ人あんまりそこら辺に居ないわよ。」

「・・・マジかよ。」

ここら辺に昨日の晩、彼が居たと言う事は…彼には完璧なアリバイは無いという事になる。


「犯行は計画性を持ってるのに…なんで、あの女の子の所に駆け寄ったんですかね?」
彼の行動に千葉は疑問をもつ。高木には、すでにわかっている。彼がそんな行動をしてしまった理由を…

「…きっと、あいつは、その瞬間、あの事件の事を思い出したんだ。…あの事件は、ひき逃げみたいな物だったから。」



突然、瑞樹の所在がわからなくなる…




携帯電話で慌てて捜査本部に連絡をいれていた高木は、
「…そうだ。瑞樹が行きそうな場所?……楓のいる場所!?…彼の現在の実家はどこですか?」
彼の行きそうな場所を一つ思い当たった。

彼の実家の方に行く電車に、彼が乗っていたって事をつきとめたので…彼等もそっちに向かう。




有田瑞樹の実家。彼がチャイムを鳴らす…出てきた女性は確かに知っている人だった。

「お久しぶりです。おばさん…オレです、高木ワタルです。」
「高木ワタル?・・・・え、ワタルちゃんなの?ずいぶん大きくなったわね。遊びに来たの?残念、入れ違いになったわ。瑞樹なら、さっき帰ったわよ。」
「やっぱり、瑞樹、ここに来てたんですね。……オレ、遊びに来たわけじゃないんです。」



「瑞樹が…楓を死なせた男を殺した?」
「…信じたくないけど…そうなんです。そして、瑞樹は…たぶん、死ぬ気です。…だから、楓の墓所はどこですか!!」



「・・・」

瑞樹達の母親は高木に楓の墓所を教えてくれた。

「ありがとうございます、おばさん!!」
「瑞樹を止められるのはワタルちゃんだけよ…助けてやって。」
「わかってます!!」



瑞樹は楓の墓前に花を置く…
「お前の好きだった花だよ…やっと、楓の元にいくよ」
そして、瑞樹は…隠し持っていた銃を自分に向け、引き金を…

銃声が響くが、その銃口は地面に向かっている。

「な、なんで、ワタル…なんでお前がここに居るんだよ」
「……瑞樹の行先ならわかるさ。友達だから…。」
高木が自殺しようとしていた瑞樹を取り押さえていた。

「オレは、楓の後を追うんだジャマするな」
「絶対に、死なせない!!」
そう言うと、高木は、瑞樹の手から銃を叩き落す。彼等の周りには既に数名の刑事が居た。


高木に取り押さえられている瑞樹は、事件の動機を話し出す。
「……楓が死んで、3ヶ月後。…あの男がオレの店に来た。だが、あいつは、オレの顔も覚えていなかった。あるいはオレが変わったせいなのか……。オレの名前を聞いてもヤツは、オレが楓の弟って事にも、気がつかない。それでも、いつかは謝罪してくれると信じてた。けど、…痺れを切らして、オレはやつに言ったんだ、お前のせいで、ずっと意識不明になっていた楓が死んだって…だが、あいつはオレに、「裁判で全ての決着はついている」そう言って笑いやがったんだ。楓を殺しておいて謝罪の言葉さえ無いなんて許せるかよっ。…あいつは五年も苦しんで、死んだってのにっ、のうのうとやつは生きているなんて、そんな不条理を許せるか!!…何度も許そうと、努力しても、土台無理な話だ…。何年経ったって、オレの憎しみは消えやしない!!…自分の都合って言う馬鹿げた理由だけで殺しておいて楓の事を笑う様な…あの男は、死に値したんだ。」

………っなっ…

「なぁ…ワタル、お前、友達だろう…友達だったら…オレを死なせてくれよ。」

……っ…けんっな……ふざけんなっ!!例え、どんな理由があろうと・・・奪われて良い命なんてねぇ!!」



「高木さん?」千葉達が高木の大声に目を丸くする。


「お前の中の楓は微笑んでやがんのかっ…オレには泣いてるように見えるぜ!」

「!…楓…」

瑞樹の脳裏に浮んだ楓はとても哀しげな顔をしていた…

彼はもう、何も抵抗はしなかった。
「………誰か、こいつに手錠をかけてくれませんか?お願いします、僕にはどうしても……」

「ダメですよ高木さん。高木さんがその手で、かけてあげるのが、友達じゃないですか?」

千葉のその一言に、ハッとする高木達。

「…千葉!そうだな。そうだよなぁ。…ありがとう千葉。」
と、千葉に礼を言うと、高木は手錠を手に持った、瑞樹はすっと両手を高木の前に差し出す。

そして、都内で起きた射殺事件の被疑者は友の手で手錠をかけられ…警視庁に連行されて行った。




警視庁で、瑞樹の取調べが行われている。取り調べ室の彼は素直だと言う。

銃の密売ブローカーから、銃を買い、ずっと、被害者を殺す機会を狙っていた彼は、あの日、自分の経営する店の事務所から抜け出し、前もって呼び出しておいた被害者を殺害した。
ビルから現場への移動手段は、車に載せる事の出きる折り畳み式バイクだった。と言うわけだ…。


「瑞樹…」


どうしても、取調室に行って瑞樹の顔は見たくなかった…。あいつの顔を見たら、たぶん…オレは、泣くような気がするから…。



「大丈夫、高木君?あの射殺事件の犯人って高木君の同級生だったんだって?辛い捜査だったでしょ?」
佐藤が高木に話しかけている。彼女は他の事件の捜査にいってたので、高木と被疑者の関わりを後から知った
「佐藤さん…」


「高木君、ねぇ…辛い事聞くと思うけど…その事件ってどんな事件なの」
「……そうですね。何れ、わかる事ですし…」




「僕と、楓と瑞樹は…幼なじみでした …楓と瑞樹は血はつながってなかったけど本当に仲の良くて、まるで、恋人同士みたいな姉弟でした。

その日、あの暑い日に事件が起きました。

僕達は部活が終わって三人で帰りました…二人が僕と別れた後、…二人が歩いている所に車が突っ込んで来て……その車は狙ったように楓だけをはねた…。
大きな音に驚き、そこに駆けつけた僕は、瑞樹が一生懸命に楓の名を呼んでる姿を見ました。

楓をはねた車それは盗難車でした。そこから、見つけ出した証拠によって確保された被疑者は……以前、楓にこっぴどく振られたって男だったけど…
彼女は意識不明のままだったし…彼の殺意を完全に立証し切れなかったので、事件は傷害事件として処理された…。
あの人達もがんばってくれたんですけどね…

あ、その人は、彼女の事件の担当の刑事だったんですけど。…オレは…あの人の刑事としての姿勢に憧れました。

 あの人に出会わなければ……オレは、本気で刑事になろうなんて、考えもしなかったでしょう。強くて、行動的で、人情味に溢れてて………今でも、あの人はオレにとって理想の刑事です。」

「そうか……それで高木君は刑事になろうと思った訳なんだ。………ねぇ、高木君って、もしかして…その楓って女の子の事好きだったの?」
「え?」
美和子の言葉に少し驚いた表情。





…賭けられなかった記憶…

「あれ?ワタルじゃない?同じクラスになったんだ。私、楓だよ。」
「え??楓なの?」

「なんだーぁワタル…彼女か?手ー出すの早いな。」
学友達のからかいの言葉。
「な、訳ねーだろ。幼なじみだよ。」

「楓ー。」
楓を呼ぶ少年。
「お!楓の彼氏か?」

「それだと良いんだけどね。…瑞樹は、私の弟。」
「…弟なんて居たの?」
「うん、血はつながって無いけどね。」

部活が一緒だったオレと瑞樹は楓って言う共通項で仲良くなっていった。しばらくして、楓も同じ部に入って来た。

「楓、お前さぁ、瑞樹の事好きなんだろ?」
「そうよ。」
彼女は自分の気持ちを隠さなかった。
でも、彼女の気持ちは瑞樹には完全に伝わっていなかった…
いや、自分達の関係が姉弟というものだったから……遠慮してたのかもしれない…

 楓は…ずっと瑞樹の事しか見ていなかった。あまりにも純粋過ぎるぐらいに…
楓の言葉を瑞樹に伝えた所で…ベットで眠りつづけていた楓は奇跡が起きない限り微笑まない…
その奇跡にオレは賭けるべきだったのか…今となってはわからないけど、あの時のオレは、瑞樹に楓の気持ちを言う事は出来なかった…。
お前への想いで…あいつはもっと強い絶望を知ってしまうってわかっていたから…瑞樹も楓の事を強く想っていたから…。





「さあね…どうでしょうね。」
そう呟くと、軽く笑顔を見せる高木であった。佐藤は…
「あ、はぐらかしちゃう気?ホントにどうだったの?好きだったの?ねぇ?」
うわあ−−−−っ、何も聞こえませんっ」


高木は手で耳を塞いで、佐藤の追求から逃げる。



こんな結末は悲しすぎる…けれど、泣きたい気持ちは抑えろ……この事件の捜査を完全に終わらせるまでは…。まだ仕事は残っているんだから…

「オレ達刑事は、哀しんでいる人の為に、今、自分に出来る事をしている。」

オレが憧れたあの刑事はそう言った。



オレは佐藤さんと軽口を叩きながら…その言葉を心の中で反芻していた。

FIN

後書き:今回は…高木君の刑事になろうとした切っ掛けと言うシチュエーションで作ってたんですが…暗い話じゃん(←チー○ス?)
 勝手な設定な物語(いつもの事だろ)だったけど…辛かったよぉ…出来あがるまで…めちゃくちゃ時間がかかったもんで…(笑)いつもより、長編になりました。

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