美和子の想い・ワタルの想い

一つ前に戻る

by,石礫


 数年前
事故…そこに巻き込まれた女性を助ける警察官
怪我が治り、彼女はその警官にお礼を言いに行くと、その警官は違う部署に行ったと聞かされる。

 

「捜査一課の高木ワタルさん居られますか?私、佐倉花実と申します。」
 その日の午後、警視庁の高木を、とてもキレイな女性が尋ねてきた。彼女の名前を聞くと高木も知っているようだ。
偶然、由実は佐倉花実という女性と会っている高木の姿を見てしまった。…よせばいいのに、わざわざ佐藤に報告しに行く由実。
「昔の女?」
「あれは、きっとそうよ!でも高木君、意外と隅に置けないわね。あそこまで美人と・・・んっ!ちょっと、どこに行くの?美和子。」

 

 警視庁近くの喫茶店で高木と花実は話している。
「・・・でも、まさか高木さんが捜査一課の刑事さんになっているなんて、思いもしませんでした。」
「そんなに以外ですか? でも、ホント、元気になってよかったですよね佐倉さん」

カラーーン(喫茶店の扉が開く音) 喫茶店に佐藤が入ってくる。丁度、高木は扉に背を向けていたので、気が付いていない。佐藤は見つからない様にと思いながらも、高木達の近くの席に座る。佐藤は高木と話している相手を見る。彼女はどこかはかなげな雰囲気を持った女性で、まさに、佐藤とは正反対のタイプだった。
「あれが、高木君の昔の女。」
二人を見ているうちに、その二人が恋人同士だった姿を、佐藤は想像してしまう。
 『ギャァ―――――――ッ!なっ、何を考えてるのよ!!私ってば、変よ!!!』(まったくだ)

 その時、佐藤と高木の携帯電話が同時になる。呼び出しだ。捜査課に戻ろうと立ち上がる。その瞬間、佐藤と高木は目が合った。
「さっ、佐藤さん!?・・・なんでここに?・・・アッ!こっ、この人は、そっ、その…」
「アッ!たっ、高木君早く行かないと、目暮警部に怒られるわよ!じゃ、私先に行くから!」
佐藤はまくし立て、高木たちから逃げるように喫茶店から出て行く。高木も、佐藤を追うように喫茶店を後にする。

「佐藤さーん、待ってくださいよ!!あのですね、あの女性(ひと)は・・・」
「なんで、私に説明するわけ!私には、高木君が何をしようと関係無いじゃない!!」
佐藤の答えに「えっ、」と呟いたきり、高木は黙ってしまった。

 

 居酒屋で佐藤と由実は飲んでいたのだが、佐藤は酔いつぶれ、何か寝言を言っている、由実は佐藤の言葉に耳を澄ます。
「何よ、高木君っ・・・昔の女とあんな仲良さそうに・・・バカ。高木君なんて大嫌いよ。(T_T)」
などと、呟いているのだ。しかも、涙ぐんでいる。由実は思った。
「美和子・・・それって、もしかして・・・嫉妬しているんじゃ・・・」

 

 翌日。警視庁に出勤した高木は、周りのみんなが、何処かおかしいのに気が付いた。高木の顔を見ると皆、口々に(まさか、あの高木がね。) (うらやましい)などと、訳の分からない言葉を言っているのである。
白鳥警部は、何故か勝ち誇った顔をしている。

 ぜんぜん、訳が分からない高木。そんな高木に、由実が話しかける。
「昔の女が現れて、美和子の気持ちを煽るか・・・作戦としては、悪くないわね。でも、高木君。よりによって、あんな美人は、まずかったわね。・・・美和子には効きすぎなくらい!」
「はぁ?なんですかそれ、そんな覚えないけど・・・」
 全く、身に覚えが無いので、高木は、由実の言っている事の意味がよく分からない。
「とぼけちゃって。ほら、この間、高木君を尋ねてきた女性(ひと)よ!」
「えっ!!佐倉さんの事?彼女は、別に、昔の彼女も、何も、無いんですけどぉ・・・」
「またまたぁ、警視庁はその噂で持ちきりよぉ。」

 『ま、まさか!!それで、みんながっ!ど、どうしよう!!?全くの誤解なのに…じゃあ、佐藤さんにも・・・・・オ、オレ、どうすりゃいいんだぁぁっ!!!』
高木は、とんでもない問題に頭を抱えてしまった。

 

 今が、チャンスとばかりに、白鳥は佐藤を食事に誘おうとしている。
「佐藤さん、今夜、私とイタリア料理にでも・・・」
しかし、佐藤はボーっとしていて、白鳥の言葉を聞いてはいなかった。しばらくして、やっと、白鳥がいるのに気がついた。
「はぁ?なにか言った・・・?白鳥君?」
「アッ!あの・・・佐藤さん。私と今夜イタリア料理でも・・・」
「・・・・・・・・・パス・・・・・・そんな気分じゃないから。」
「え、佐藤さん、体の調子悪いんですか?」
 白鳥は佐藤を心配するが、そんな白鳥を無視し、佐藤は帰り支度をはじめている。佐藤に完全にシカトされ、白鳥がブルーになったのは言うまでも無い。

 

 捜査課を出て廊下を歩いている佐藤に気が付いた高木は彼女に声をかける。
「あのぉ・・・佐藤さん。」
佐藤は高木の顔を見るなり、警視庁の廊下をダッシュで逃げ出す始末。
「そっ、そんなに嫌われたのかな。オレ・・・(T_T)」
高木は落ち込まれずにいられなかった。

 

 佐藤はラーメン屋にいた。彼女はやけ食いの如くラーメンの大盛りをカッ食らう…
「あの時の美和ちゃんは、荒れていたな。」と、後にラーメン屋の主人は語る。

 

 その帰り道、佐藤は、この間、高木と会っていた佐倉花実と、偶然に再会する。
「あれ?この間、高木さんに会いに行った時に、会った。・・・確か、佐藤さんですよね。」
佐藤は、彼女をよく見た。やはり、とても美人だ。自分とは正反対の彼女に、佐藤は、なぜかショックを受ける。
 それから、何を思ったのか、意を決したように尋ねる。
「あの、突然ですが、あなたは高木とは、どういった。…アッ!私、そのぉ、高木とは同僚で…」
「・・・・佐藤さんって、もしかして、高木さんの恋人ですか?」
「え!?い、いえっ、そ、そんな…ベ、別に、私は高木君とは・・・・」
花実の言葉に、赤くなりながら口を濁す佐藤。花実は優しく微笑み、佐藤に高木との事を説明する。

「命の恩人なんです高木さんは、数年前。車の事故に巻き込まれた私を助けてくれたのが高木さんなんです。それで、あの日、お礼を言いに高木さんを尋ねたんですよ。」
「そうだったんですかっ!『ホッ』(あれ?なんで私、今ホッとしたんだろう。)」

花実と別れ、佐藤は鼻歌を歌いながら家路についた。

 

 佐藤はドンカンである。想ってくれている人の気持ちにも気が付かないし。自分自身の気持ちにも気がついていない。実は、嫉妬していた事も・・・全く気が付いていないのである。気になっている事は確かではあるのだが…彼女が彼への本当の気持ちに気づくのは、いつの事になるのやら・・・・

 

はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ(×2)」
 翌日、警視庁捜査一課強行犯三係には、二つの淀んだ空気があった。その淀んだ空気の主の高木と白鳥は朝から、かなりブルーだった。

「おっはっよぉーごっざいまぁすっ!」
そこへ、佐藤が明るく入ってきた。佐藤は落ち込んでいる高木の背中を思いっきり叩く。
「おはよッ!元気無いわね。高木君!」
佐藤のやたら元気な顔を見て、面食らう高木。
「佐藤さん・・・?」
佐藤は、ささやくように、高木にだけに聞こえるように言う。
「この間は、ごめんね・・・高木君。」
「えっ、佐藤さん・・・」
 高木ワタルと佐藤美和子は、しばし見詰め合う。

『ドキン!(×2)』
(あなたが好きです。心の中では言えるのに…)
(何で、高木君にドキッとしたんだろう。)

 それから、佐藤美和子と高木ワタルは、少し照れたように赤くなり、互いに目線そらした。

「さあ、仕事よ、高木君!」
「は、はいっ!!」
高木は、佐藤の嬉しそうな顔が大好きだ。だから、そんな佐藤を見ると高木は嬉しくなる。
 白鳥任三郎警部は、まだブルーなままだった。

 

FIN

後書き:この美和ちゃんは嫉妬深い…ま、それは仕方がない事だとは思いますけれどね・・・・