風が吹く…

一つ前に戻る

by.石礫


とある映画の撮影中、ある俳優が殺された。水の中に体を突っ込んだ状態で…被害者の体の上に一通の封筒。 中には、自分の犯行を示唆する何者かの告白文があった。
…つまり、これは殺人事件である。そして、それには、まだ犯罪が続くような旨の事も書かれてあった。

 警視庁から刑事が来た。白鳥任三郎警部、高木ワタル、佐藤美和子、の面々である。

  被害者 映画俳優 黒津 州太郎(61) 死因は感電死。  映画の撮影用の池の中に、線が繋がれた状態の撮影用ライトが倒れてた。
そのため、池に電流が流れており、それが直接の死亡原因になったようだ。

 容疑者 アイドル(黒津州太郎の娘役)赤居 茜(20) 赤居 茜のマネージャー黄瀬 隆明(31)  俳優(赤居茜の恋人役)藍図 雄太(20)  映画監督 盛山田 紫(32)
この四人。アリバイはこの四人には無い。

 取り調べうけて帰らされることになった4人、赤居茜は、高木の顔をじっと見ると…高木の名前を聞く。
「あなたの名前は?」
「た、高木ワタルですけど…」
「ワタルちゃんか…かわいい。」 そう呟くと、茜は高木の唇に近い頬へのキス。
「あ――――――――っ!」 刑事達の驚愕の声。佐藤が一番おどろいた顔している。

「なんで、私と高木君があの赤居茜をマークしないとならないの!?白鳥君!!」
 この事件の指揮をとる白鳥警部の命令に佐藤は不平を漏らすが、白鳥はなぜか、ニヤリとした。

 撮影所にきた刑事達、昼食中。弁当を食べながら、佐藤と話している高木を見かけると茜は高木に抱きつく。
「赤居さんいいかげんにしてください!!」
「いやーん、ワタルちゃん!『茜』と呼んで。」
佐藤の手元で『グニャ』と妙な音がしたので見ると、佐藤は高木を睨みつけていて・・・・その手に握っていたコーヒー缶を握りつぶしている。
「な、何で、スチール缶が…」高木は、ひきつった。


犯人の遺留品の手紙はこの撮影所の古いワープロから打たれた物だが、撮影所の人間は誰でもそれに触れられたので、犯人は特定できない。
「ワープロなんて、今時打てる人いるんですか?」
「あら、今時はパソコンでメールなんだからワープロなんてちょちょいよ…あの赤居さんだって…」
「…佐藤さん、茜さんのこと目の敵にしていません?」
「え!そ、そんな事無いわよ…」


 調べてくうちに、被害者の周辺の事が明白になっていく。 黒津州太郎は、女好きでどうしょうもない人物であった。
藍図雄太は黒津にきつく当たられていた。黄瀬隆明は彼に借金していた。盛山田紫は6年前まで黒津の愛人だった。赤居茜は黒津に迫られ困っていた。
つまり、4人には動機があった。

 容疑者のマークは続く、突然、茜の前を車のヘッドライトがひかり、車が「キキ――――ッ!」とブレーキをかけながら迫ってきている。高木がすぐに飛び出して茜を車からかばう。
「大丈夫ですか!茜さん。」
茜は涙ぐみながら高木にしがみついている。車はすぐにライトを消し走り去っていった。
 なぜか、佐藤はその車の姿ではなく、茜に抱き付かれている高木を見ていて、ボーとしている。
「佐藤さん!車のナンバーは!?」
高木に声をかけられ、佐藤は我に返った。
「ごめん!見損ねた…」
「え、佐藤さん…らしくないですね」

捜査本部に茜が狙われたと、高木と佐藤は連絡をいれる。
「あのぉ…ワタルちゃん、一体、犯人はダレになるの?」
茜に聞かれ、つい、高木は答えてしまう。
「茜さんが狙われたので、犯人は黄瀬さん、盛山田さん、藍図さんの3人の誰かと言う事になるんじゃないんですか…?」
「あの人達の中に…信じらないわ。」
茜は憔悴した表情を…だが、一瞬、彼女が笑ったのを眼の端で捕らえた高木は、茜の裏の感情を垣間見た気がした。

 他の捜査員にバトンタッチして、高木は佐藤に言う。
「すいません!オレ、気になることがあるんで撮影所に戻ります。」

車で撮影所に向かいながら、高木はある推測をしていた。犯人と、その動機…



 撮影所、何度も話を聞いていた映画の撮影スタッフがいた。
「すいません!何度も話を伺っているんですが、…一つ、聞きたい事があるんです。」
「高木さん…なんですか?」
「ある事を、隠してますよね…撮影所のみなさん。」
その撮影スタッフの表情は固まった。
 高木は、言葉を続ける。
「これは、僕の推測なんですが…黒津さんは…」
「な、なんで、その事を!?」 高木の言ったことに、スタッフは、驚いた。その推測は、的を得ていた。


 高木はその推測が、確信に変わった事が分かったが…
「謎は…解けた…。でも、そんな事って…」高木は呟く。その確信は、嫌悪すら覚える事件のあらましを指し示していた。



 黄瀬は自分の住んでいるマンションの屋上にいた。 その背に魔手が伸びる。


「あなたが、この事件の犯人ですね。茜さん…」


そこへ、高木の声が凛として響く…、声がかけられ驚きながら振り向く茜。茜がいたことに驚く黄瀬。二人の前に、高木と佐藤を含め4、5人の刑事がいた。

「茜さん…あなたは、黄瀬さんを殺そうと思っていた。違いますか?」 茜を犯人と名指しした高木に、茜は驚いた。

「なに言っているの、ワタルちゃん、やだなぁ。」
「茜さんの標的は、黒津さんと黄瀬さんのみですね。黒津さんを殺したのを黄瀬さんに見られた茜さんは、黄瀬さんをこう脅した…『言えば、あなたの秘密をバラス。』とね…」
それを聞いた茜と黄瀬の表情が凍りついた。それに気が付いて佐藤は高木に聞く。
「黄瀬さんの秘密?どう言うこと、高木君?」
「僕は撮影スタッフから、黒津さんと黄瀬さんにまつわる噂を聞きました。」
さらに、黄瀬は血の気が引いていく。 苦々しげに高木はその先を言う。
「それは、黒津さんに借金を棒引きにしてもらう代わりに、黄瀬さんは自分の担当したタレントを、黒津さんに…」

「やめて!!……これ以上は、言わないで!」 茜が叫ぶ。そして、すべてを吐露し始める。

「…そうです、黄瀬は、借金の利子として私の体を…あの男に私をレイプさせたんです。黄瀬と黒津は『君には将来がある。ここで黙っていれば、これから芸能界でいい様に出来るぞ』そう言いました。 私は、二人を許せなかった…だから、二人を池の所に呼び出したんです・・・・

「今までの事を全て警察にぶちまけます。私を無理矢理、襲わせた事を…他の人にも同じ事したことを…」
その夜、撮影用のライトが池を照らしていた。茜、黒津、黄瀬がいた。
「ふん、そんな証拠も無い事を言えば、おまえが芸能界を追放されるのが落ちだぞ」
「そうだよ、茜ちゃん…ここは穏便に…」
茜は、一枚のMDを取り出した。
「これは、あの時の会話を録音したものです。これでも証拠が無いと言いきれますか?」
「貴様、いつのまにっ!よこせっ!!」
黒津はそれを奪い取ろうと茜の腕をつかんだ。
「いや、はなして!!」
…思わず、茜は黒津を池に押した。そして、ライトとともに黒津は池に倒れていった…。

……これが、この事件の真相です。そして、私は、これを計画殺人に見せかける事にしました。警察に自首するよりも、2度目の殺人をしようと思ったんです。黄瀬の事は殺したいほど、憎かったですから……。私が疑われる前に黄瀬を疑いの目を向けさせるために、黄瀬に車で襲わせました。まあ、もっとも、この人は、私を本気で殺す気があったのかも知れませんけどね…。」

笑いながら、大泣きしている茜。放心している黄瀬。二人は別々の罪であるが、警察に連れて行かれる事になった。


 刑事に連れて行かれようとしていた茜は、高木にこんな事を聞く。
「ねぇ、もし、ワタルちゃんに、もっと別の形で会っていたら、私の事……好きになった?」
 高木は哀しげに微笑んだ。佐藤は不安そうな表情をしている。
「すいません…別の形で出会っていたとしても、僕は、あなたの気持ちにこたえる事は出来なかったと思います。」
高木のその答えに、背を向けていた茜は、少し笑った様に見えた。
「……正直ね。」


 そこには、哀しき風が吹く、不思議なほどに…。



 高木と佐藤はまだ屋上にいた。
「ねぇ、高木君…なんで、赤居さんを好きにならないって言いきれたの?」
佐藤のそんな質問に、高木はテレながら答える。
「その事ですか、……僕には大切な人がいるからですよ。…それは…」
「それは…!?」
高木と佐藤はみつめあう。高木は今なら佐藤に告白が出来るような気がした。
 だが、高木は(それはあなたです。)とは、なかなか言い出せない。 佐藤はその言葉を待っている様だった。


「白鳥警部の指示で、戻って来いとの事なんですが・・・」
突然、ほかの刑事に声をかけられて、高木の一世一代の告白のチャンスは消えてしまった。(白鳥さんのせいでね。)


 そして、この事件の容疑者だった別の二人… 高木は聞く。
「盛山田さんと藍図さんは恋人同士だったんですね…。」 二人は答えた。
「ええ、そうなんです。」 「僕らの関係はスキャンダルになると…みんな黙っていてくれていたんです。」
 藍図と盛山田の二人に当てられつつ…
高木は、 「よし!オレも、今度こそっ、佐藤さんに告白して見せるぞ!!」 と、決心だけは、してました。


 一方、こちらでは… 佐藤は飲み屋で管を巻く。一緒に飲んでた由実もびびる位に、佐藤は酔っている。
「高木君の大切な人って、誰なのよぉ・・・ねぇ、由実は誰だと思う?」
実は、佐藤はさっきから、由実に何度も同じ事を聞いていた。そういうわけで、由実はかなりあきれていた。
「それは、あんたよ! 美和子ってば、どうせ、覚えてないと思うけど。…早く本心に気づけ!!」
由実にそう言われ、佐藤は、にやけていた。嬉しいのか?それとも、単なる笑い上戸か?



 しかし、翌日の佐藤は、自分の言った事も、由実に言われた事も、全く覚えていなかったのだった。 そして、高木君の受難の日々は続く?



補足:ありがたい由実さんのお言葉「どうでも良いけど、さっさと告白しなさいよ!!どっちかがっ!」


FIN

後書き:結構、まじめに書いたんですが…少し展開が早過ぎます。(名前を修正しました。)