ちいさな棘 title05-list
by,石礫
その夜の碁が、佐為が最後に打ち切った碁だったと知ったのは、この日から、ずいぶん後だ。
saiが打ってるなんて感づかれたら大変だけど………でも、ちょっと寂しいかな
何かが胸にチクリと刺さる。
オレはその時、何故か、寂しいと思った。…何故か、saiが打ってたと緒方先生に気が付かれたかった気がした。
「練達な打ち筋…そうだ…まるで…saiと打ったような……」
緒方先生の呟きにどきりとしながらも、そう言われた事が不思議と嬉かった…
もうすぐ…あれから…半年になるんだっけ…
ふと棋院のヴァーチャル水槽の前で立ち止まると、佐為を思いだした。
…突然…悲しくなって、泣きたくなったのに何故か笑ってしまった。
シャッターの音がした
その音のしたほうを見ると緒方先生がいた。
「おまえ、何、変な顔してるんだ?」と話しかけてきた、
先生が手に持ってるのって携帯電話…?
「変って?…あ!それ、もしかして、カメラ付き携帯?」
すると、先生はにやりと笑って、また携帯電話からカメラのシャッター音
「ほら、変な顔だ!」
先生に携帯の画面を見せられた。確かに、そこにはオレの顔。
「うへーそんなに写るの?…あ!ちょ、ちょっと、ダメだって!それ消してよ!」
変な顔に写されたのが嫌で、先生から携帯を奪おうと手を伸ばすけど、いかんせん身長差がある全然届かない。
オレをからかう様に先生は更に携帯に届かない様にする。まったく、見た目通り底意地、悪っ!
ふと、先生と目が合った瞬間。先生に「sai」の事を聞かれる様な気がした
今まで、一度も、緒方先生を怖いなんて思った事なかったのに…いきなり、オレは緒方先生が怖くなった。
早く、この人から離れないと…!
何故か…そう思った。だから、オレは逃げ出した。
「進藤!」と先生の声が聞こえたけど、ただ、ただ、逃げる事に精一杯だった
あの時…何故か…気が付かれたいと思っていた自分
この時…何故か…逃げ出す事しか考えられなかった自分
胸に刺さった何かは…多分、罪悪感と言う小さな棘
でも、棘は…刺さったままで…先生に会うたびにズキズキと痛んだ。
棘の痛みを感じたく無いから…だから、会わない方を選んだ。
でも、心のどこかで…何故か、会いたいと願う自分がいた。
FIN
オガヒカ小説3の「携帯オムニバス「画像」」ヒカル視点の話になりました。一応これだけでも成立する様にしたつもりですが(汗)