2月14日

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writting by小雪さん

2月14日。
世間の女性陣は愛しいあの人へとチョコに群がる。
デパートには特設会場まで設けられ、戦場と化す。

“チョコ”という甘い力を借りて、女の子がほんのちょっぴり素直な勇気を出せる日。
だから女の子にとって、自然と大切な日になる。
それが2月14日。

由美には、最近会う度に“誰かさんにチョコ渡すの?”と聞かれる。
その度に、私はキッパリ拒否する。
こうしつこいと、いい加減由美に嫌気がさしてくる。

私には関係ないこと。
刑事の私には…。

そう。
刑事の私には、バレンタインだのクリスマスだの甘いイベントは二の次。
私はただ、都民の愛と平和の為に日夜取り組むだけ。
こんな儀式、私には関係ない…。


『あの、高木君…これ…。』
『え?これ、僕に、ですか?』
『えぇ。思い切って作ってみたんだけど…食べてくれる?』
『は、はい!!』
『まずかったらゴメンネ?』
『そ、そんな!味なんか僕、関係ありません!僕の為に作ってもらえて、その…嬉しいです。』
『高木君…。じゃぁ、さっそく感想聞かせて?』

あ〜ん……。


―――やだやだ、私ったら何想像してるのかしら!?

こ、こんなこと、私にはありえない…。
素直な私は、まだまだ暗くて深い闇の中。


そして月日が流れ、2月14日。

今日の捜査一課は、何だかせわしない。
チョコ目当てなのがバレバレ。

ったく、こんなの本来の警察官にあるまじき姿だわ…。
勤務中に厳正なる本庁で…。

私は心の中で冷たく振舞いながら、自分の席についた。

結局、チョコは一つも用意しなかった。
内心少し迷ったんだけど…。
由美が聞いたら、何て言われるかしら?


この日に限って、私は高木君とペアで行動することに。
他の刑事に比べて、高木君はやけに冷静だ。
いつもと変わりない素振り。

今日がそんな日ってこと、高木君は気付いてないのかしら?
いや、一課では他の刑事があんなに騒ぎたくしてたからそんなはず…。

…それか、私に動揺しなくてもそれだけもらう宛があるってこと…?
高木君、やけに純な所あるからそこが母性本能をくすぐらせて…。

はっ!!

我に返った私は、不純な考えを吹き飛ばそうと頭を思い切り左右に振る。
そんな私を、高木君は不思議そうに見つめていた。


そして日が暮れて、今日の仕事も一段落つく。
事件も今日が特別な日ということを察していたのか、やけに静かに時間は過ぎていた。
一課に戻って来た私と高木君は、身支度を始める。

何を話せば良いのか、会話が思い浮かばない。
さっきからずっと沈黙が続く。
今日が2月14日だから…?

ろくに話さないまま、私達は別れ道まで来ていた。

「じ、じゃぁね。」
「あ…さ、佐藤さん!」

突然高木君は私を呼び止める。

「さ、佐藤さん…そ、その…今日って…。」
「…あら、今日がどうかした?」

ついつい私は、根も葉もないようなことを言ってとぼけてしまった。
後悔先に立たず…。

「い、いえ。何でもないっス。少しだけ期待してしまっていた僕は大バカや朗です。すみません、今のは忘れて下さい。それじゃ…。」

高木君は何だか寂しそうに、私の傍から離れて行く。

「ま、待って!」

私は、高木君の腕を掴んだ。
素直な私をうまく出せないかもしれないけど、本当の私はきっとこうしてるはず…!

「高木君。今日は2月14日、バレンタインよね?わ、私…。」
「“すっかり忘れてて何も用意していない”でしょ?」
「えっ、何で分かったの?(今日がバレンタインってことは分かってたけど…。)」
「佐藤さんのことだから、チョコよりも事件で頭がいっぱいなのかなって…。でも、本当は僕、ほんのちょっぴりだけ…。」

高木君は、空元気に笑って見せる。
その笑顔を見て、私は何とも言えない気持ちになった。
そして、私の手を掴んでいた高木君の腕から手へ移動させる。
そして、手を握った。

高木君は驚いた様に私を見る。

「し、仕方ないわね。もらう宛がないんならこれから一緒に見に行くわよ?もういいのは残ってないかもしれないけど、好きな物買ったげる!」
「さ、佐藤さん…!」

これが、精一杯の今の私。
高木君は、私の手をギュッと強く握ってきた。

「お、お給料前なんだから休めので勘弁しなさいよ?」

行き先は決めないで、私と高木君は歩き出す。

今までは意地になってたけど、やっぱり私も女の子。
本当は今日が特別な日って思っている中の一人。

“チョコ”という甘い力を借りて、女の子がほんのちょっぴり素直な勇気を出せる日。
だから女の子にとって、自然と大切な日になる。
それが2月14日。

 

〜END〜

 

あとがき

素直になれない佐藤さんのバレンタインデーでした。
葛藤の後、少しだけ素直になれた佐藤さんに待ってたのは、チョコの様に甘いひと時(笑)
手なんか繋いで、高木君はどこで何を買ってもらったのでしょうか??

小雪さんのHP桜の花びら


背景はこちらからお借りしました

14日までのフリー配布になっていたので、折角なので頂いて来ました。
きっと、ついつい、照れで素直になれないのでしょうね。まあ、そんな佐藤さんがスキvです
素敵な作品ありがとうございますね(^▽^)ホワイトデーが楽しみです