未来刑事ワタル
Story by Arashi Sorimachi
コレは、チャット会でお約束させられた(笑)、仮面ライダーアギトネタです。
覚悟してお読みください。
(1)
「高木くん! ちゃんと照準合わせて! そんなチンタラやってたら、被疑者逃がしちゃうじゃない!!!」
「・・・・ゆ、由美さん。む、無理っすよ〜〜。高木さん、警察学校ではけん銃操法の成績イマイチでしたよ・・」
「千葉、うるさい」
な、なんで、僕をにらむんですか・・・と、千葉は涙目で、渋々モニターを覗く。
(G3システムオペレーターになんかなるんじゃなかった・・)
愚痴る千葉を横目に当の由美はというと、
「あら? そう?・・・私は結構、気に入っているけど・・・・・」
千葉の気苦労もまるで感じて居ないようだ。
警視庁が対凶悪犯罪に向け、採用した画期的システムを操作する特殊捜査官。
それが、G3システム。
高木は、先にオペレーターとして選出された宮本、千葉の両隊員の推薦を受け、その装着員として拝命を受けた。
「だから! 僕にはぜ〜〜〜ったい無理なんですってば!」
「あんたね、そんな事言って、降りたら私が絶対に許さないわよ!!」
「・・・・し、しかし・・・」
「あんたが辞めたら、変わりに白鳥刑事が抜擢されるのよ? 知ってる? 捜査一課のエリート刑事!!」
「し、知ってますよ。僕の上司ですから・・」
「由美さん、なんで白鳥さんはダメなんですか?」
「彼じゃ、絶対無理な理由があるの」
「・・・???」
システムダウンしたのち、高木は喉の乾きを潤そうと、側にあったコーヒーに手を伸ばす。
バシッ!!
「痛〜〜〜〜っ、ゆ、由美さ〜〜ん」
「コーヒーなんて飲んじゃダメよ。あんたはコレ」
差し出されたものは、なんの変哲もない麦茶。
「僕、コーヒーがいいんっすけど」
「だーめーー!」
由美の前では、蛇に睨まれたカエル状態である。
「?」
「どうしたの?」
「い、いや・・・・今、すぐそばに小さな男の子が居たような・・・・・」
「ええ?・・・・まさかぁ・・・」
コントロールトレーラーから、外を覗くが、警戒厳重な警視庁内の研究施設である。
子供が簡単に入れる場所では無い。
「高木〜〜〜ぃ」
「ほ、本当に居たんですよ!! 頭の後ろがちょっと出っ張った、メガネで蝶ネクタイで半ズボン、サスペンダーをした男の子が!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「な、なんか妙にリアルね・・・そ、それ」
「そ、そうですね・・・・・・」
千葉も由美も思わず顔を引きつらせた。
(2)
「きっと、子供は高木くんのいつもの妄想なのよ」
「由美さん・・・・・・・(そんなに信用ないのか・・俺)・・・・」
警視庁捜査一課の廊下を歩きながら、由美は高木の言葉を「妄想」の一言で片づけてしまう。
一体、どうしてこの『宮本由美』が自分をG3システムの装着員に指名したのか、高木には全く理解が出来ない。
自分のどこに、そんな秀でた部分があるというのだろう。
「高木くん、上手く使いこなしているそうじゃないか?」
嫌みな言葉が高木の背中に突き刺さる。
由美には、その声の主が誰であるのか、判別出来た。
嫌いなものは、余計に目に付く・・というが、その反応は過剰な程だ。一気に振り向くと人さし指をその人物の鼻先に突きつける。
「で、でたわね! 天然ピヨちゃんパーマ!!」
「ゆ、・・・由美くん。なんです、そのピヨちゃんパーマ・・・とは」
「聞いて分かんない? ひよこが間違えて居座りそうな程、巣によく似ているその髪型以外に何があるのよ」
「し、白鳥警部・・・・」
白鳥と呼ばれたその男は、警視庁捜査一課のエリートで、由美の横やりがなければ、G3システムの装着員に抜擢されていた筈の男である。
そのせいか、高木に対しては妙に風当たりが強い。
いつも、目の敵にされては嫌みな台詞を投げつけていくのだ。
「君・・・・・、口のききかたにもう少し気を付けた方がいい・・・」
「あんたね。いくら私のせいで、システムの被験者リストから外されたからといって、高木を恨むのはお門違いですからね」
「僕がそんな、了見の狭い男に見えますか?」
「思いっきり見えるわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(ゆ、由美さん・・・・・・敵なし・・・・・(^^;))
白鳥と由美の間に、一瞬寒い風が流れた。
「ゆ、由美さん・・・・」
「何よ、高木。私は今忙しいのよ」
にらみ合いの続く白鳥と由美の間に入り、高木は呆然として立ちつくした。
目の前には、いつしかの少年がホール吹き抜け階段の上より見下ろしていたのだ。
しかし、それは以前に目撃した姿とはあまりにも容姿が変わっている。
高木は驚愕のあまりにそれ以上は声にもならず、ただ冷や汗だけが流れた。
由美が高木の視線に気づき、顔を上げ、高木同様驚きの声を上げる・・・・。
「・・・ま、まさか!!・・・」
「ゆ、由美さん・・・どうしたんです?」
「どうしたのかね? 由美君」
千葉と白鳥も追って振り返った時には既に少年の姿は消えていた後である。
「由美さん・・・。僕、前にみたメガネで、ナスのヘタの様な頭をした少年・・・・・」
「・・・・・なんですって?」
「あ、あまりにも似ているんです。でも・・・・でも、前見たときは確かに小学生だったのに・・・・・」
「・・・・・彼を知っているの? どうなの?!」
「ゆ、由美さーーん。く、くるひいぃぃ。首を絞めないでくださいぃぃぃ!!!!」
まるで、いつもの由美とは違い豹変した彼女に、一体何があるというのか?
(あの少年は確かに以前は小学生だったはずなのに・・・)
たった今、あの階段の上に姿を見せた少年の姿は、どう見ても高校生。
しかし、どうしても『子供の姿をした彼』とシルエットが重なる程、共通点が多すぎる。
高木の中で、更に少年の謎は深まっていった。
「あかつき号事件・・・・・・」
由美が休憩室で呟くと、周りにいた刑事がその言葉に反応し、一斉に息をのむ。
「・・・??」
「あの、あかつき号事件の彼が何故、あそこに・・・・・」
「由美さん。何です? そのあかつき号事件って・・」
高木が再び、問い尋ねた時、その場にいた警官全員が既に遠ざかり、重苦しい空気が更に二人を押しつぶそうとしていた。
「由美さん?」
「き、君には関係ない事よ・・・・そう、あれは警視庁には無かった事なのよ・・・・」
(3)
(警視庁には無かったこと?・・)
高木は、由美の言葉が頭から離れない。
(あかつき号・・・・そこで一体何が・・・・・・??)
「高木さん、目暮警部が呼んでますよ」
「へ???」
同僚の警官から連絡を受け、会議室へと足を運んだ高木は大きく息を吸い込むと勢い良くそのドアを開ける。
その開けた先には、目暮警部を始め、松本管理官、小田桐警視長の蒼々たる顔ぶれが並んでいた。
勿論、その席の一番下座には、冷ややかな目を向ける白鳥警部も同席している。
(・・・・・・な、何があるって言うんだ??・・・か、勘弁してくれよ〜〜)
「高木君も呼ばれたの?」
「あ・・・由美さん、千葉も・・・???」
3人が官僚の前に立ち一礼をすると、目暮警部から静かながらも厳しい言葉が吐き出された。
「か、解任・・・・・?!」
「ま、まって下さい! 解任っていうのはどういう事ですか?」
一同が顔を見合わせると、白鳥警部が不敵な笑みを見せる。
「G3システムは遊びじゃない・・・って事ですよ」
「な、なんですって!」
「高木くんが、装着員に拝命を受けてから、一体どれだけ成果を上げましたか?」
「・・・・・・・・」
「空き巣、1件。道路交通法違反、3件・・・・・・これだけの設備を投入してこれだけではねぇ・・・あまりにもお粗末なんではないですか?」
「・・・・、そ、それはまだ高木刑事が、システムに慣れていないから・・・・」
「宮本君」
「管理官!・・・G3システムは常人では制御するのにも、かなりの時間と訓練が・・・・・」
「聞き賜え!・・・・・私は、G3システムになんら問題があるとは、思っていない。我々は、むしろ装着員である高木巡査部長に問題があると考えているのだ」
「し、白鳥警部に代えるとおっしゃるのですか?」
「そのつもりだ」
由美と官僚達とのやり取りの間で、何故か高木の心は静かだった。
今まで苦労してここまで、訓練を消化してきた。
しかし、自分はどれだけ吸収できたのだろうか?
自分は、最初から疑問に思っていたのだ。一介の刑事である自分が、何故この科学の最先端を行く、G3システムの装着員に抜擢されたのか・・・・・。
高木は一度、天井を見つめると由美に笑顔を向けた。
「由美さん・・いいんです。僕はやっぱり無理なんです」
「何バカ言ってんのよ! 高木! 私は言ったはずよ。降りるなんて許さないって!!」
「由美君。それじゃあ聞きますが、私が装着員に慣れない理由って何ですか? 君、前に言ってましたよね。『白鳥警部には絶対装着員になれない理由がある』・・・ってね」
白鳥の鋭い視線が由美を指す。
「宮本君。言い賜え・・・・」
「しかし・・・・・」
「構わん。言いなさい」
警視長の静かな一言に、由美は大きく息を吐き出すと、ゆっくりと首を振った。
「いいわ。白鳥警部。トレーラーまで来て頂戴。実際に装着すれば判る事よ」
会議室を出て、全員が長い廊下を足早に歩いていく。
高木が最後に部屋をでて、ふと視線を移した時・・・・・・。
「!!!」
「どうしたの? 高木くん。早く来なさいよ!」
(ま、またあの少年?・・・・・し、しかもまた小学生じゃないかーーーー!!)
一番最初に見た時は、小学生。
二度目に吹き抜けの階段で見たときは高校生。
三度目に見た今・・・・・・。
また、小学生ってのは・・・・!!
一体、どうなっているんだーーー!!!
今日、あまりにも一度に沢山の事がありすぎて、僕は参っているのかもしれない・・・・。
高木は、何度も頭を振り、コレは夢なんだと自分に言い聞かせた。
そんな覇気のない高木を思いやってか、由美は力強く手を引く。
特別施設内に置かれた実験場へたどり着いた時には、もう解任も残留もどうでもよい事に思えるほど、憔悴しきっていた。
「さぁ、白鳥警部。やれるもんならやってみるのね」
「ふふふふ・・・いいでしょう」
白鳥が、前髪を掻き上げスーツからG3ユニットの装着に取りかかる。
「ゆ、由美さん・・・。ホントのトコ。なんで、僕をG3システムの装着員にPUSHしたんですか?」
由美の口端が引きあがり、伏せた目からも笑みがこぼれる。
「ばかね。かわいいからに決まってるじゃない♪」
・・・・・・・・・・・・・・。
「ゆ、由美さん?・・・・・(もしもし?)・・・」
「そ、それだけっすか?」
「他に何があるのよ。・・でなきゃ、こんな面倒臭い特別捜査官になんかにならないわよ。あの『白鳥』がなってごらんなさいよ。私の楽しい本庁生活がバラ色から灰色になるのよ!・・・・・そんな、トコで働いて何が楽しいっていうのよ!?」
(・・・・・・つ、つまり。顔だけってことっすか?)
高木は、千葉に背中を叩かれるが、立ち直る事が出来ずにコントロール室の壁に手をつく。
「・・・で、白鳥警部・・・・どうかしら? 装着できて?」
由美の言葉は、かなりの自信が満ちあふれている。
千葉も高木も、その場に居合わせた官僚も皆、白鳥の動向に思わず目を反らす。
「・・・・ゆ、由美君。・・・・・・き、君・・・・コレは・・・・!!!」
青い顔の白鳥。
「ぷーーーーーーーーーっ!!!」
「た、高木さん・・・笑っちゃ悪いっす・・・・・・ぶははははは!!」
「千葉! 君、笑うんじゃないよ!!!」
全員が必死で笑いをこらえる中で、由美だけは両腕を組み白鳥の前で胸をはる。
それは、まるで勝利宣言であるのかのようだった。
「さぁ、白鳥警部。そのまま走ってみるのね!」
G3システム。厳しい訓練と人格判定から選抜され、さらにその中にあって飛び抜けた才能を持つ若者(←とにかく、凄い人)・・・・・・が対象である。 白鳥警部も年齢的になんら問題は無い。
階級も高木よりは遙かに上だ。
しかし・・・・・・・。
「足の長さが違うわよ!!」
「くくく・・・。い、いや、失礼。・・ご、ごほん。し、白鳥くん・・・ぷぷ・・そ、装着スーツが合わない・・・・ぷぷぷ・・・ようだな・・・・・ぷっ!」
「な、何故だ! ヘルメットも何故入らない!!」
必死になって、頭にヘルメットを押しつける白鳥は、さながら無理矢理ガラスの靴に足をつっこむシンデレラの姉のようだ。
「このシステムスーツは、高木の体型にミラクルフィットするように出来上がっているのよ。高木よりも『頭のでかい』白鳥警部なんか、当然入る訳がないでしょ? 高木は『この由美様の理想像』に合わせて作られたスーツと照らし合わせ、厳しい条件をクリアした唯一の警察官なのよ! おほほほほほほ!!!!!」
「な、なんと・・・」
松本、目暮との間で密談が交わされ、それが小田桐へと伝わり、なにやら頷き決定が下る。
「宮本君」
「警視長・・・何か?」
「このシステムに導入した予算はいくらだったかね?」
「・・・・・・・千葉、いくら?」
「は、はぁ・・・・確か、15億だったような・・・・ねぇ。由美さん」
「サイズ変更するとなると、最低8億は必要かと・・」
うむと、唸ると警視長は高木に再び拝命を課した。
「高木巡査部長。引き続きG3システムの装着員として任務に励み賜え」
「・・・・って、事で高木くん。それ以上体型崩しちゃダメだから。麦茶にしましょうね」
悪魔の様な微笑みで高木の手からコーヒー缶を奪う由美の後ろで、千葉は苦笑いを繰り返す。
「・・・あ、ところで由美さん。あかつき号事件ってなんですか?」
「ぶっ!」
高木の思わぬツッコミに、先ほど取り上げた飲んでいたコーヒーを吹き出す由美は、思わず千葉を見る。
あんたが説明しなさいよ・・・・・・・由美の命令に逆らえず、千葉は事件の概要を語りだした。
「つまり・・・・・・、あかつき号って呼ばれる船舶で殺人事件が起きたんですがね・・・・。誰もが悩みお手上げ状態だった所で、とある少年があっさり事件を解決しちゃったんですよ」
「少年?」
「・・・・・そうなのよ。さすがにねぇ、子供においしいトコ持って行かれては『警視庁の恥』だから、あの事件はここでは禁句なの。その事件を解いた少年ってのがあの階段で会った子よ」
へ?
「・・・・・・・で、でも何で、高校生が本庁の一般人立ち入り禁止施設に・・・・・?」
「警視庁へ出入りを許可する条件として、あの事件は捜査一課が解決した事になってんのよ」
「は、はぁ・・・・・なるほど・・・・・」
思わぬ真実に高木も、思わず口を紡ぐ。
(確かにそりゃ・・・警察の恥だわな・・)
しかし、高校生の筈のあの少年は一体何故、小学生の姿をしていたのか?
(あれは・・・多分。僕のみた幻だったんだろう・・・・・・・)
今日も事件発生の一報を受け、G3システムのコントロールでは緊急起動の警報がなる。
高木、宮本ら、特別捜査官は再び現場へと駆けだしていった。
高木は再びG3システム装着員として、正義の為に闘う!
戦え高木! 負けるな高木!
しかし、警視庁に残る最大の謎と、真実。
それは・・・・・・一体。
(4)
「ちょっと工藤くん」
「あんだよ灰原」
差し出された灰原の手に、思わずお手をする少年は人なつっこい笑顔で更に『わん』と鳴いた。
その手を容赦なく叩き返すと、少年の目から小さな涙が流れる。
「いって〜〜〜。灰原、おもっいっきり叩くんじゃねぇよ」
「あなたね。私が研究中のATPXの解毒剤を使って、若い警官からかうクセ。いい加減やめてくれない?」
そう?・・・と首を傾げて再び笑う工藤新一は、その手に小さなカプセルを握りしめ再び捜査一課の廊下を走りだした。
「今度、捜査2課にでも行ってくんかな」
「・・・・・・・・工藤君」
「へ?」
「悪趣味ね」
「まあね。・・・・・・・でも、あの高木刑事・・・・・。一番いままでリアクションが面白く無かったか?」
・・・・・・・・ま、確かにね。
灰原も珍しく、思い出し笑いに頬を染める。
そして、いつしか自分もまた工藤の悪趣味につき合う事が面白いと感じて居ることに気づき始めていた。
−END−
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