ずっと友達だよ!・エピローグ
それは彩ちゃんに初めて会ってから1週間後の出来事だった。
「あのさ、この前の彩のことで相談があるんだが…聞いてくれないかな」
その言葉を耳にした瞬間、私の体が今も吹き荒れている外の風のように冷たく凍りつく。
お正月気分も抜けた、2月。
春に向けて少しずつ暖かくなってきているというのに、私の心の隙間だけがまだ寒い。
耐え切れなくなって、私は永野君の話も聞かずにそのまま逃げ出してしまった。
胸が苦しくて、そして息苦しくて。
息が荒いのはきっと走ったせいなんだと自分に言い聞かせようとしても、現実を考えてすぐにその考えは違うものになっていく。
そんな行動を取ってしまった自分が、どんな思いで永野君のことを見ていたか。
でもきっとそれは叶わない。
あのクリスマスの日、確かに私は言った。
『私たち、ずっと友達だよね?』
だけど、あの時の私はまだ気付いていなかった。
ずっと友達…本当にそうなってしまう瞬間、私はどうなってしまうのだろう?
もう遅いのかもしれない…前の恋を引きずって、私は前を向こうとしてなかった。
いつも「きゃはは!」って笑いながら、まわりの人たちを幸せにしようとしていたけれど、その私が一番幸せになれない。
それは決して誰かのせいじゃない。全部、私のせい。
人のことばかり気にしすぎて、全然私自身のことが見えていなかったのだ。
その日の帰りのこと。綺麗な夕日が私の顔を照らす。
だけど今日の夕日は、違って見えた。
どこか、切ない光…心が締め付けられるようで、まっすぐ見ることができない。
「帰ろ…」
どうしてもやらなければならなかったことがあって1時間ほど作業をしていたため、教室の中にはもうさすがに誰もいない。私はカバンを持って教室を出る。
と、作業の疲れからかそれとも別の理由からなのか…肩の力がまったく入らないままに校舎を出た時。
大きな桜の木に寄りかかっている、1人の人影を見つけた。
それは、まだ咲く気配のない桜のように。
力なく、自分の体を全て預けているように見えた。
「彩…ちゃん?」
私の呼びかけに反応して、顔をこちらに向けるその女の子…
「くるみさん…私、やっぱりムリでした…」
前に会った時の彼女と違って声も小さく、やっとの思いで振りしぼっているのかもしれない。
今の言葉がどんな意味なのかわからなかったけれど、何かが彩ちゃんに起こったことは間違いなかった。
「どうしたの?きゃはは、私でよかったら相談に乗ってあげるよ!」
人が悲しむのを私は見たくない。だって今の私が悲しいから。
こんな気持ちを、人にしてもらいたくない。特に、私のまわりの人には…
だから、私は明るく振舞う。そうして、できれば私の悲しみもやわらげたい。
ところが、この話は生やさしいものではなかった。
「私、永野先輩にふられたの…」
それから何日かが過ぎて。
私はその間、永野君と話をすることができなかった。
結局、彩ちゃんのことについての相談というのは、私の思った通りだった。
だけど、永野君はその想いを断った。
だったら、永野君はいったい誰を…
そう考えて一瞬だけでも期待してしまった自分に、彩ちゃんに対する罪悪感と、うぬぼれたことを考えた恥ずかしさがこみ上げてきて、それが永野君に話しかけられない1つの原因になってしまっている。
でも、そんなのも今日で終わり。
まだ、迷いは捨てきれていないけど…
彩ちゃんが言ってくれたこと。
『くるみさんも、私のように自分の気持ちに正直になってください。顔を見ていればわかります。くるみさんも何かで悩んでいることくらい…』
その悩みも見透かされているんだろうな…と私はその時わかっていた。
だけどきっと、この前に私がお兄ちゃんに思ったことのように、あえて言わないということを彩ちゃんもしているのかと思う。
その気持ちを受けて、私は彩ちゃんと同じ桜の木の下で、彼を待ってる。
そして彼がやってきたら、私の今の気持ちを正直に言うんだ。
「あれ?くるみちゃん…どうしたの?」
「…あのね、これ!」
きっかけのバレンタインチョコレート。そう、今日はバレンタイン。女の子が男の子に想いを伝える日。
だけど私は、少し違う。彼に向かってこう伝えるんだ。
「永野君、ずっと友達だよ!」
それはこの前に考えた『友達』という意味ではなくて、違う意味も込められている、私の精一杯の想い。
両手に乗せた包みを差し出しながら、ゆっくりと焦らずに、これからのことを考えていこうって。
この桜の花が咲く頃には2人で肩を並べて、笑いながら話すことができるかな?
きゃはは!まだまだ先は長いみたいだねっ!