クリスマスの奇跡・7 
 
 
 やがて、結局俺まで一緒になってあんまんを食べ終わってしまった俺たちの間では、話題も尽きて、話もとぎれがちになってきてしまっていた。
 ただ、暖房が響かせる低音と、冷蔵庫のファンが回っている音、それに一つ一つ時を刻む針の音とが一体化してステレオ効果となって店内を包み込む。
 俺たちは今まで、長針が一回転するまでこうして話していたのだ。話題が尽きるのも無理はない。
 そう、やはりあいつは今回も遅刻記録を更新したのだ。
「あーっ!遅いな、あいつ!もう六時になるぞ。まったく、何してんだよ・・・・」
 するとここで相原は俺から視線を放さずに一言。
「いいじゃない、それだけ二人っきりでいられるよーぉ」
 こいつは・・・・また俺を期待させるようなことを言いやがって。
 そんなこと言われた時には、なんて返していいものやら。
 結局俺は何も言い返せずにいると、相原はついにオチをつけた。
「あ、ちょっと無理あった?」
 はあ・・・・やっぱりからかっていたわけね。度々重なってきたし、もう慣れたよ。
 待ちに待ったドアの開く音は、そこで聞こえた。
「ははっ、まいったまいった!」
 飛び込んできたのは、わざとらしく、さも急いできたかのように、ヘルメットをかぶりっぱなしで息せき切らした交代の奴、秋野だった。
 時計の長針は、すでに真上を向いていた。
「おい、遅いぞ!お前なぁ、毎度のことだけどおかしいぞ。その時計三十分遅れてるんじゃないか!?」
 ヘルメットを外す作業をしながら、秋野は定番の言い訳モードに入った。
「ははは、悪っりい悪りい。実はさ、ちょっとそこでバイクですっ転んじまってさ」
 だいたい本当に転んだならもう少しせっぱつまった感じになるだろうに。へらへらと余裕出してそんなこと言われたって、何の説得力もない。
「ええーっ!」
 だがしかしいち早く反応してしまったのは他でもない、やはり相原だった。確かに言ってることが本当なら、それは驚いて当たり前か。俺は慣れてしまったわけだけど。
 とは言え、人にはやれ『女の子と付き合う時は気をつけた方がいい』とか言っておきながら相原自身がだまされていることに俺はあきれてしまった。
「バカ、ギャグにもなってねーよ!言い訳がだんだん苦しくなってきてるぞ。相原も笑いながらそんなこと言う奴信用するなよな、こういう奴がいるから」
「むっ、その言い方は心外だな。でもそれも一理ある。今度からは口実のレベルも上げていかないとな」
 本当に秋野も相原に続いて調子に乗りやすい奴だ。
 そして俺の中での我慢はこれまた終業式の時の相原と同じように限界へ達し、ついにはセカンドインパクトを起こさざるを得なかった。
「そういう問題じゃないっつーの!」
 俺はカウンターを手を振り下ろすようにしてたたいた。
 さすがにこれには秋野も一瞬電流が走ったんじゃないかと思うくらい左右に小刻みに動いたことからけっこう驚いたらしい、今までの態度から一変、急に俺へ服従を始めた。
「うわっ、すいませんっ!それは謝ります!と、ところでさっき見事なリアクションをしてくれたそこの彼女は誰なんですか?」
 そして秋野の気持ち悪い敬語の行く先は、相原へと向けられた。それが俺が相原との関係を意識するきっかけになるとは、まさか思わなかったけれど・・・・
「あ、相原のことか。えっと、なんて言えばいいんだろうな・・・・」
 この間にも秋野は『もしかして・・・・』を連発し、俺は『いや、そうじゃなくて』と否定、相原は相原で俺たちの会話に割り込んでくる。
 そうしながら俺がこの微妙な関係をどう説明しようかと考えていた時だったのだ。相原が最果てにして最強の一言を発してしまったのは。
「わ、私、河内君の彼女なんです!」
 三人の食い違った会話は、これだけで一本にまとめられてしまった。