クリスマスの奇跡・6 
 
 
「ちょ、ちょっと待った!」
 なにせ本当に帰られてしまっては、これから残り時間は何をして過ごせばいいのやらわからない。
 さらに今までは相原の存在があったからここまでなんとか寂しくならなかったわけであって、この後は一気に静けさのどん底になること間違いなしだ。
 せっかく相原が来る前までの退屈な雰囲気が無くなってくれたというのに、これから突然にいなくなるなんて、天使が裏切るくらいに残酷すぎる。
「なぁに?河内君、何か意見はありますか?」
 どうやら相原も計算してのことだったらしい。結局俺は振り回される運命にあった。
 でもいったん断るようなことを言ってしまった手前、単刀直入に言えるような立場でないと思った俺は、遠回しに言ってみた。
「い、いや・・・・つきあってやるよ、相原に。せっかくのクリスマスイブなんだからな」
 しかし、さすがに自分に有利なこの言い方には無理があったか、相原はお気に召さなかったらしい。
「もう、素直じゃなーい。なーんか、私がしたいみたいな言い方してるーぅ。やっぱりやめよぉーかなぁー」
 再び帰るような行動を見せる彼女。ついにどうしようもなくなった俺はプライドさえもかなぐり捨ててしまった。
「わ、わかった。すいません!してください、この通り!はい、確かに一人で過ごすのはとても寂しいです!」
 つーんとそっぽを向いていた相原はその俺の言葉でこちらに振り返り、下手に出た俺をいいことに、見下すように言った。
「ふふっ、よろしーい。じゃあしてあげる。で、本当にバイトはいつ終わるの?」
 俺はレジから見て左手、ジュースなどが入っている冷蔵庫の真中上部に位置している、ほぼ正確なこのコンビニオリジナルのロゴマークの入った時計を見た。
「うーん、あと三十分くらいかな。交代の奴が遅れなければ、の話だけど」
 だが、その交代の奴の時間のルーズさは筋金入りで、とても時間通りに来るとは思えない。しかも今回のように夜に入った場合はなおさらだ。まず信用性は限りなくゼロ。
 さらに遅れた時にはもれなく言い訳つき。シフトの関係で幾度となく聞かされている俺としては、どれが本当でどれがウソだかそいつの様子からして見分けられるようになってしまった。ほとんどがウソだけど。
「じゃあ、それまで私、ここで待たせてもらうね」
 相原はそんなことを知らないがためにそう言えるのだ。
 おっと、他の奴のことを毒づいている場合でもない。自分の仕事をまた忘れそうになっていた。そう言えば相原は客としてあんまんを頼んでいたんだったな。
「それよりも、ほら、頼んだあんまん。税込で八十四円。ちゃんと払えよ」
「えーっ、私とデートできるんだからそれくらいおごってよー!」
 出た、また調子に乗り出したぞ。
「こらこら、自分で頼んどいてそりゃないだろっ!」
 すると相原は我慢しきれなくなったように大口を開けて笑いだした。
「あははははっ!冗談よ、冗談。もう、すぐに本気にするんだから、河内君って」
 お金を出す時にも性格は表れるようで、相原は自分の財布から、本当にきっかり八十四円を出してカウンターに置いた。
 たまたまあっても出さない俺とは正反対。相原の本当の性格が出た感じがする。
 おもしろくなってきた俺は、ここで自分のプライドを捨てさせられたことに対して、何か逆襲をしようと考えていた。
 たぶんそのように細かく出すということは、八十四円でも大事に思っているはずだという予想のもとで、こんなことを言ってみたのだ。
「あーあ、そりゃ残念だな。せっかく今、思い直してやっぱりおごってやろうかって考えてたのにさ」
 なんとこれが俺にとって久々の大当たり。案の定、相原の表情が普通ではなくなった。
「えーっ、そんなのずるいよぉ!」
 やられっぱなしだった俺としてはストレスが発散できるくらい気持ちのいい、優越感を楽しめる展開となってきた。
「まあ、お金も出しちゃったことだし。もうしまうほうが面倒くさいだろ」
「もう・・・・河内君のイジワルっ!」
 でもさすがに男が女に対してこういうことをするというのはあまりよくないのかなと思いはじめてきた俺は、少し行きすぎなイタズラに泣きそうにさえなっている相原にため息をついて言った。
「あー、わかったわかった。いいよ、おごってやるよ。そんな泣きそうな顔されちゃ、俺も何にも言えなくなるよ」
 すると相原はまるでこれまでの態度がウソだったかのよう…というかウソだったのかもしれないが、その表情は一転、
「わーい、うれしーい!」
 そんなにうれしいことなのか、手を挙げて小さなジャンプを数回繰り返した。
 共に彼女の顔が、一瞬にしてかわいさ余る笑顔になった。
 俺はそんな彼女に、不覚にも見とれてしまっていた。
 今まではかけらも思わなかったことだけど、もしかして俺はこのように絶えず笑っている彼女が実は好きなのかもしれない・・・・