クリスマスの奇跡・4 
 
 
 それからというもの、俺の身の回りでは学校に行かなくなったというだけで他には何も変わったことはなかった。
 そう、行く先が学校ではなく、コンビニになったことくらいだ。
 俺はその働き先となったコンビニで、滅多に来ないお客、だいたい四十歳位のおじさんの相手をしていた。
 今、店内にはこの二人しかいない。たぶんおじさんは家でパーティーでも開くのだろう、その楽しさの裏側で、ポテチなどのスナック菓子を袋に詰める度に出るビニールの擦れる音が俺にはやけに寂しく聞こえる。
 俺はそのおじさんにそれらを詰めた袋を差し出した。
 おじさんは何も言わず、一つ礼をしてドアを出ていく。
「ありがとうございました」
 そう言っている自分も、元気というものが出てこない。
 住宅地前に位置するこのコンビニでさえこんなにも静かだということは、世間の人々は今、恋人と会ったり、家族で過ごしたりして楽しんでいるに違いない。
 本当にそうかどうかはわからないけど、そう考えてしまうのだ。少なくとも、ただ立っているだけの俺よりは有意義な時間を送っていると思う。
 俺は脱力感を感じ、客は来ないと判断して、さっきおじさんの出ていったドアをくぐり、寒空の中で壁に寄り掛かった。
 効き過ぎるほどの暖房で全身がだるくなっていた俺の体には、喝を入れられたくらいにこの寒さがしみこんでくる。まるで、巨大な冷凍庫に入りこんだようだ。
 俺の一つ吹く度に出る息が、回りの景色が真っ暗なせいもあってか余計に白く、そして遠くまでのびていく。
「はあ・・・・月がきれいだな」
 見上げたずっと向こうで静かに輝く三日月、それさえも俺の息だけでかすんでしまう。
 俺は再び目線を地球へと戻し、まだ夕方だというのにすっかり寝静まってしまったあたりの様子を見ながら、俺はその場に座りこんだ。
「しかし俺、何してんだろうな。今日は十二月二十四日だぜ?クリスマスイブだぜ?それにもう午後五時なんだぜ?あいつ、交代の時間に遅れたら承知しないからな!」
 と、一人でほえたところでどうにかなる問題でもないか。返ってきた返事は近くに住んでいる人が飼っている犬の鳴き声だけだし。
 しょうがないか。どうせ家に帰ったって何があるというわけでもない。誰かに当たったって仕方ないもんな。
 結局自分で思っておきながら更なる孤独感を感じてしまった。そのせいか体が中心まで突き抜けるように冷えて、寒気がしてきた。そろそろ中に入ろう。
 と、まだ仕事中のコンビニへ体をこすり合わせながら戻ろうとした時だった。
「こらー!何さぼってるんだっ!」
 俺にとってはこの言葉は心臓が体を飛び出す勢いで跳ね上がるほどの動揺が走った。
「わわっ、すいませーん!って・・・・おい、お前相原じゃないかっ!」
 見上げてみれば、さすがにこの冷凍庫のような寒さには耐えきれないのだろう、オーバーコートを着込んだ相原の姿が、そこにはあった。
 しかし正体がわかったところで、まだ今のは驚きを止めることができない。胃までもが縮みはじめている。はあ・・・・体に悪い。
「もう・・・・これで三度目。ひっかかりすぎだぞぉ」
「うるさいな。そんなの、ここにくるとは思わないじゃないか」
 俺の寒さが限界に達しはじめていたため、そこでかまわず俺はコンビニの中に入った。相原も、その後に続いた。
 そして再び静まりかえった店内で、今までにはなかった相原の声が響いた。
「それにしても、やーっぱりここだったね。へへー、来ちゃったんだ。いろいろとか言っといてぇ・・・・そうだと思った」
 そういえば、俺はここで定期的にバイトをしている。そこで、相原と一度と言わず何度も顔を合わせていたような気がしなくもない。
「ほっとけ。自分のことを棚にあげといて・・・・ってコラ、人を指で差すな!」
 相原は果たして俺の話を聞いているのだろうか。
「だいたい相原だって同じようなもんじゃないかよ。デートはどうしたんだ、デートは」
「え、えーと・・・・それは、うーんと・・・・」
 この反応は間違いなく、俺の思っている通りそうではなかったんだな。現に相原も笑ってごまかそうとしている。
「ま、たぶんデートじゃないとは思ってたけどな」
「私だって河内君はいろいろって言ってたけど、こうなるって思ったよ」
 お互い同じことを思っていたことがおもしろかったからか、俺も相原も、お互いの顔を見ながら笑いはじめてしまった。
 そしてその見慣れた相原の笑顔を見ながら、一瞬俺は、彼女は俺のためにここに来てくれたのだろうか、と考えはじめていた。
 それはこれまでの寂しさから来ているのかもしれない。けれど、ただそれだけの理由ではないはずだ。
 俺のためだけに来てくれている、そう考えるだけでも心臓が高鳴るのだ。
 でもとりあえず今は、この気持ちを言わないでいよう。