クリスマスの奇跡・2
彼女はまず俺の右肩をたたき、俺の名前を呼んできた。
「ねぇねぇ、河内君!」
なんだよ、と思いながらも俺は後ろを振り向いた。
すると、ほほに冷たい何かが当たった感触がした。
「あっはは、ひっかかったーぁ!」
俺は彼女の指先へ視線を移した。すると、あらかじめセットしていたと思われる彼女の人差し指が、俺のほほに刺さっている光景がそこにあった。
これは、言ってみればえらく古典的な『ひっかけ』というものでは?
「なんだよ、相原か。そんないたずらして楽しいか?」
俺はいい加減離してもいいはずのその指を、我慢できず振り払ってそう言った。
彼女は俺のその態度が気に入らなかったのか、ほほをふくらませながら、それでもすぐ口元は逆への字に戻り、明るそうに言った。
「うん、楽しいよー!こんなのにひっかかるなんて、河内君もまだまだだなーって」
と、彼女はそのひっかけた指を俺に向けて差してくる。
こいつは俺を馬鹿にしに来たのか?そう思うのが妥当だよな。
「あのな、今はふざけている余裕はないんだ。話するなら他にしてくれ。しっしっ!」
「あっ、ひっどぉーい!私はただ、河内君が寂しそうにしていたから元気付けようと思っただけで・・・・ううっ、悲しいよぉ」
絶対うそだ。ただ楽しんでいるだけに違いない。だが、目を手で覆って泣いているのは本当のように見える。
おいおい、マジでかよ。この状況だけを見られた時、無条件で俺が加害者になるのは必至だ。だから女というものは困る。
とは言えフォローしないのはそれこそよくない、と思ったお人好しな俺は、心の底では怒りをぶつけたいのをおさえながら彼女になるべく優しい声をかけてあげたのだった。
「おい・・・・ま、まあ悪かったよ。そうだよ、俺が全て悪いよ。だから・・・・」
と、その続きを言おうとした時だった。覆っていた手を目から離すと、ついさっきとなんら変わることのない笑った顔が現れた。
「なーんてねっ!」
俺は想像していた表情と白黒正反対のギャップに、何も言葉が出なかった。
「もうっ、河内君ってホント、ひっかかりやすいんだから。女の子と付き合う時は、気をつけないといけないよっ!」
さすがにこれ以上の我慢は、俺にはできなかった。
「あ・の・な・・・・!」
どうやら彼女も気が付いたらしい、ようやく顔が少しだけ引きつってきた。ここまでやっておきながら気が付かなかったのもすごいが。
「きゃあ!もしかして怒っちゃった?ごめんなさぁーいっ!」
身体を攻撃するとどんな正当な理由だとしてもセクハラになる。そこまで堕ちていきたくない俺は、攻撃するふりだけしておいた。
それを理解しているのかしていないのか、彼女は身をよじらせてもうこれ以上攻めないでと言わんばかりに俺に謝っている。
…なんだかすごく誤解を招きそうな言い方な気もするけど。
「ごめんなさいで済むかってんだ!ったく・・・・」
まあ、でも少し元気が戻ったのは本当かもしれないな。少しくらい感謝してもバチは当たらないだろう。
「それにしても河内君、すごく顔冷たかったよ。手なんかもっと冷たいんじゃなーい?」
そして彼女が取った次の行動は、俺の手を自分の手と合わせてきたことだった。
神経に続いての心理的攻撃に、いつもの俺にはない、左胸の運動がなぜか激しく、早まってくる。
やっぱり感謝はなし!おかげで俺はペース乱されっぱなしだ。
「お、おい!なにすんだよ!」
不意だったこともあって、今度は振り払う力にも本気が入ってしまった。
しかし、こたえないのか彼女はいまだ変わらず笑顔のままだ。
「河内君の手って、実は小さかったんだね。ほら、私と同じくらい」
そう言いながらまた彼女が俺と手を合わせようとする。
俺は彼女の無神経さに困り果ててさえいた。
「大きなお世話だ!」
本当にこいつは・・・・一体何をしに来たのやら。