Under20,Over20 epilogue
クリスマスの時にだけ鳴り響く7時の鐘の音が、私の前を通り過ぎていく。
来るはずのない人を待ち続けながら…
暗い、点滅している街灯の下で。
渡すはずだったプレゼントも、まだ手に持って。
「20歳の誕生日、おめでとう。空下君…」
なんて、本当はとても辛いはずなのに格好つけてみたりして。
「…何、やってるんだろう。私…」
こんな悲しい気持ちになったのは、どれくらいぶりだろう。
もしかしたら、初めてかもしれない。
今まで男の人に興味がなかったわけではなくて、きっと、これまでは自分から行動に移していなかったから痛みも少なくて済んだのだと思う。
けれど、空下君…
入学式の時、桜の木の下で話した時から、ずっとあなたのことが気になっていたんだよ…
少し不器用かもしれないけれど、空下君の優しさ、いつも伝わってきてた。
くるみちゃんから空下君の課題のことを頼まれた時、手伝うことを決めたのは、もっとあなたのことが知りたかったから。
今まで私、真面目な子だと言われ続けて、勉強とか、頑張ってこなしてきた。
けれど課題を手伝ったあの日、今まで教わったことなんてまるで役に立たなくて…
猫の鳴き声に驚いて、とっさに空下君の腕をつかんでしまった時。
イヤな顔されないかって、すごく不安だった。
でも、そんな私の行動にあたふたしている空下君を見て。
意識してしまって私、初めてあんな大胆なことを言ってしまった。
デートに誘われた時は、本当に嬉しかったんだよ。
空下君は散歩って言ってたけれど、私にとってはデート。初めてのデート。
あの課題を手伝った日からデートした日までの2日間、空下君は私をまきぞえにしたと思っているみたいで申し訳なさそうにしていたけど、本当に私、楽しかった。
素敵なプレゼントもくれて…
でも空下君、その後の私の反応に戸惑っていたね。本当にごめんなさい。
その時ふと、あの時くるみちゃんのことが頭に浮かんでた。
普段はそうは見せなくても、空下君の優しさは、くるみちゃんにも向いていたことに気づいたの。
もしかしたら、空下君自身はわかっていないのかもしれないけれど…
だから私、どこか変な気持ちになってしまって、突然突き放したりしてしまって…
変だよね。今こうして空下君をずっと待っているのに。
今日だって…クリスマスプレゼントを渡しにここに来たのに、くるみちゃんといる空下君を見て…どうしても、渡せなかった。
わかってる。くるみちゃんはきっと、ずっと前から空下君を誘うつもりでいた。さっきの様子から見て、私も誘ったと言って空下君を安心させていたのだと思う。
でも、だからといって今さら私には引き止める資格なんてないんだよね…
寒い…寒いよ、空下君。
またあの2人きりでいた夜みたいに、すぐそばにいるあなたの腕を、ギュッとつかみたい。
そしてもう2度と、離したくない…
それは私のわがまま。だけどもし私の願いを叶えてくれるのなら。
ずっと、空下君を見続けていたいよ…
「そんなの、無理だよね…」
自分に言い聞かせてみる。
当然そんなことで割り切ることなど、できない。
「今、どうしてるのかな…」
空を見上げながら、私は頬を伝う1滴のしずくを感じていた。
おれの気持ちは、1つだった。
暗い道のりを駆け抜けていく中、確実に、その想いをかみしめていた。
ただ、同時に絶望感もあった。
すでにあの時から2時間は経っているのだ。待っているはずがないのはわかっている。
それでも、彼女の姿を求めて…
彼女の優しさをもっと、ずっと感じていたいから…
『お兄ちゃ…ううん、修一君のこと、大好きなんだよっ!』
くるみにそう言われた時、確かに心が揺らいだ。こんなにも想ってくれているのは、すごく嬉しかった。
だけど、くるみとの距離が近づくにつれて、その時頭に思い浮かんだのは…
おれは、バカなことをしているだろうか。一度は無理だとしっかり諦めていたはずなのに、また追い求めていくなんて…
でも、きっと後悔はしない。
いてもいなくても、どっちでもいい。
彼女を好きになれた自分は、大事にしたいから。
その時おれは、ズボンの中で振動を感じた。
そして同時に、短い電子音。
自分で設定したので当然わかる。携帯電話のメールの着信だった。
title:ごめんね
from:空下くるみ
ずっと、お兄ちゃんをだましてた。永野君にも迷惑かけちゃった。永野君が私を好きだっていうの、あれはウソなの。お兄ちゃんにどうしても振り向いてほしくて、私…
だから、ごめんね。すごく私は残念だったけど…きゃはは、これからもいい妹としてよろしくね!
「こんな時まで笑い方一緒かよ…」
走りながら、暗闇に光るバックライトをおれは見つめる。
直樹の今日の態度、くるみの行動…
そのすべてが、このメールですべて1本にまとまっていく。
確かにおれはくるみの行動によって、迷惑を被ったかもしれない。
しかし、それ以上に得たものもあった。
20歳になったことで、さらに感じたこと。
それは、自分の気持ちに正直になること…
ずっと遠回りしてきたけど、もう迷わない。
家に着くまでの最後の曲がり角を、おれは何も考えることなく突き進む。
そして、そこに見えたのは…
「そ、空下君…どうして…」
いつかに見た、あのデートの約束をした駅前のおれたちのように…あの彼女は、月明かりのスポットライトに包まれていた。
ただ1つ、違っていたのは…ほほを伝う、1滴のしずく。
でも、もう泣かせたりしない。
これまで彼女につらい思いをさせた分、たった一言でも、おれは誠意を持って伝えなくてはならない。
「実は、おれさ…」
そう、風中に向かって…
20歳になったおれは、変わらなくてはならない。
だけど、風中と一緒にいられるなら…
一緒にこれから先を歩んでいけるなら…もう、10代の自分を捨てる後悔はなかった。
おれは、風中の返事を待った。
もうすぐそこにまで、20歳になる不安など吹き飛ぶほどの輝かしい未来は近づいていた。
The end...
Written By mamoru