Under20,Over20 31
「ん〜!風が、気持ちいいねっ!」
「ちょっと待てよ、ここは本当に展望台なのか!?」
冬の風が容赦無く吹きつける、展望台…というよりは、ただの屋上。
おまけに、周りには誰もいない。なんとか作業用と思われるランプが1つ灯っているおかげで、顔はようやく確認できるといったところだ。
…どう考えても関係者以外立入禁止の匂いがするのだが。
「きゃはは…平気だよ!だって私、よくここに来るし!」
「途中ハシゴとか上ったぞ?」
「ダイジョーブだってばっ!バレなければヘーキなのっ!」
くるみがさも当たり前のことのように、そう言ってのける。
いよいよ、くるみが少なくともこのホテルについて詳しいこと…つまりさっきのおれの予想が合っていたことへの裏づけとなっていく。
そう考えているうち、くるみはくるみなりに考えていたことに対するおれのさっきの言葉は、いくらなんでもひどすぎたのではないかと嫌悪感に陥る。
「ったく、バレたらどうするんだよ…」
と、一応常識人を振舞いつつ。
「さっきは、悪かった…店の中で怒鳴るなんて、最低だな」
そう、おれは全然常識をわきまえていないんだ。今ここにいることからして、すでにくるみと共犯でもあるわけなのだから。
「お兄ちゃん…」
くるみの視線が、まっすぐおれを突き刺す。
「わかってるんだっ、お兄ちゃんの気持ち…よくよく考えたら、お兄ちゃんが怒るのは当然のことだって、気づいちゃったから…」
その微笑みは、今まで見たことがないほどの見とれる笑顔。
直接言わなくても伝わる気持ちって、あるんだな…
おれの今のこの思いも、くるみに伝わっているだろうか…?
と、下の方で大雨が降ったかのような木々のざわめきが聞こえた。
少し間を置いたあと、凝縮した冷気を持ったかのような突風が駆け抜けていった。
4重にも重ね着をしているおれでも、身を縮めたくなるようなほどだった。
「しかし…いくらなんでも寒すぎだぞ、これ…。確かに人はいないかもしれないけどな」
他人がいない分、夜景は確かに映えているが…ただ、お茶の1杯でも欲しくなってしまうのは否めなかった。
「寒いの?お兄ちゃん…」
対してくるみはドレスで、はおっているものもないというのに、まるで平気な顔をしている。
「改めて聞かないでくれ。余計寒くなる…」
「きゃはは!それじゃあ、こうすればいいよねっ!」
「え…」
こちらに徐々に向かってくるくるみの行動は、まるでスローモーションのようにも見えた。
そのスローモーションが終わり、再生に戻った時。
くるみの体は、おれにぴったりとくっついていた。
背伸びをして、おれの肩回りに手を回しているくるみ…
こいつ、こんなに軽かったっけか…?
おれはその瞬間、くるみも女なのだとしっかり実感した。
「きゃはは…名案、だねっ!」
くるみが上目遣いでおれの方に笑いかけている。
そこにあるほほえみは、もう無理をしたようなものではなかった。それはくるみも同じであってほしいと、おれはただそう願っていた。
そのあとの出来事は、もはや天の恵みでもあったのかもしれない。
「私、お兄ちゃ…ううん、修一君のこと、大好きなんだよっ!」
同時に鳴り響く、7時の鐘。
10代の別れと、これからやってくる新しい毎日を告げる、祝福の鐘。
今まで何度となく10代と20代のはざまで悩んできたおれは、すでにそんな不安など吹き飛んでいた。
この鐘が、すべてを物語っている。
くるみもその鐘の音に一瞬街の方に振り返るも、すぐおれの方に向き直す。
そして、くるみは今までのようにこう言うのだった。
「お兄ちゃん、誕生日おめでとうっ!」
誰もいない闇の舞台、おれとくるみのシルエットは、ひとつになろうとしていた。